2022. Dec
医学部内科学講座 腎臓研究室 薬学部
「血液透析患者における血清セレン値と治療抵抗性貧血との関連」
Selenium Associates With Response to Erythropoiesis Stimulating Agents in Hemodialysis Patients.
Yasukawa M, Arai S, Nagura M, Kido R, Asakawa S, Hirohama D, Yamazaki O, Tamura Y, Fujimaki M, Kobayashi S, Mimaki M, Kodama H, Uchida S, Fujigaki Y, Shibata S.
Kidney Int Rep.
2022 Apr 16;7(7):1565-1574.
腎臓は赤血球造血を促すエリスロポエチン(EPO) の産生を担っており、慢性腎臓病 (chronic kidney disease; CKD) 患者ではEPO産生能が低下して腎性貧血を合併する。腎性貧血の治療にはrecombinant EPO 等の赤血球造血刺激因子製剤 (erythropoiesis stimulating agents; ESA) が用いられるが、ESAに対する反応性の低下によって高用量のESA投与が必要となる症例も少なからず存在する。このようなESA低反応性はCKD患者の死亡や心血管疾患のリスク増加とも関連することが明らかにされており、その要因を同定し、適切に是正することで貧血管理のみならず予後の改善にもつながる可能性がある。
ESA低反応性には低栄養や慢性炎症、長期透析歴といった臨床的要因が関連するものの、そのメカニズムについては十分に明らかとなっていない。赤血球造血と密接に関連する栄養素のひとつが微量元素であり、なかでも鉄や亜鉛の欠乏は貧血の誘因となることが知られている。セレン (Se) は鉄や亜鉛と同じく生体に不可欠な必須微量元素のひとつであり、免疫機能や心筋活動、造血調節といった多彩な役割を担っている。いくつかの研究により、血液透析患者では血清Se値が健常者と比べ低いことが示されているが、CKD患者に合併する貧血と血清Se値との関連についてはこれまで検討がなされていない。そこで本研究では、 血液透析患者における低Se血症の頻度ならびにESAに対する反応性との関連を解析した。
ICP-MSを用いて173名の血液透析患者で血清Se値を測定するとともに、うち145名のESA投与例において、血清Se値とESA反応性の指標 (ESA Resistance Index [ERI]; ESA製剤の必要量をBWとHbで除した値) との関連を検討した。対象患者の50%で血清Se値は成人の基準値下限を下回っており、CKD患者において潜在的Se欠乏症が高頻度に存在する可能性が示唆された。また血清Se値とERIとの間には有意な逆相関関係が認められ、両者の関連は鉄を含めた様々な背景因子を調整後も有意であった。これらのことから、血液透析患者において鉄動態に加えて血清Se値がESAへの反応性の予測に有用であること、またSe欠乏がESA低反応性の病態に関与する可能性が示された。本研究の成果はEditorialでも取り上げられるなど注目を集めている(Azancot et al. Kidney Int Rep 2022:7:1447-1449)。既存の製剤に加えてSe欠乏患者に対する経口Se製剤の開発も進められており、本研究で示唆されたESA低反応性を含め、Se補充に伴う病態改善効果の検証が期待される。
文責:柴田 茂
2021. Oct
薬学部 生命薬学講座 生物化学研究室
「N-(4-hydroxyphenyl)retinamide (4-HPR) は新型コロナウイルス SARS-CoV-2 感染を抑制する」
Y Hayashia, K Tsuchiya, M Yamamoto, YNemoto-Sasaki, K Tanigawa, K Hama, Y Ueda, T Tanikawa, J Gohda, K Maedae, JInoue, A Yamashitaa
Journal of Virology
2021 Aug 10;95(17):e0080721. doi:10.1128/JVI.00807-21.
中国湖北省の武漢で発生した重症急性呼吸器症候群コロナウイルス 2(SARS-CoV-2)はパンデミックを引き起こし、2021 年 10 月までに、世界中で 2.4 億人以上が感染し、480 万人以上が死亡している。スフィンゴ脂質およびスフィンゴ脂質代謝酵素は、様々なウイルスのライフサイクルに関与することが知られている。しかしながら、SARS-CoV-2 感染に関わるスフィンゴ脂質は不明であった。そこで、SARS-CoV-2感染におけるスフィンゴ脂質の機能を明らかにすることを目的とし研究を行った。
ウイルスと宿主細胞の膜融合を安全かつ迅速に測定できる細胞膜融合アッセイを用いて SARS-CoV-2 のスパイクタンパク質を介した膜融合を抑制するスフィンゴ脂質代謝酵素の阻害剤を調べた。その結果、ジヒドロセラミドデサチュラーゼ (DES1) の阻害剤である4-HPR で処理した細胞において細胞膜融合が抑制した。さらに、4-HPR は膜融合のみならず 臨床分離した SARS-CoV-2 感染も抑制することが分かった。また、4-HPR で処理した細胞ではDES1の基質であるジヒドロセラミド骨格を持つ脂質量が増加した。しかしながら、DES1のノックアウト細胞では膜融合の効率が野生型の細胞と比べて同等であったことから、4-HPRのSARS-CoV-2感染の抑制はジヒドロセラミド骨格を持つ脂質量の増加とは非依存的な機構である。興味深いことに、4-HPR処理した細胞では細胞膜の流動性が低下することが分かり、膜の流動性の低下がSARS-CoV-2感染の抑制に関わっているのではないかと考えている。
4-HPRは抗ガン剤としての臨床研究が進んでおり、肺癌などの臨床データおよび安全性のデータが蓄積されており、抗 SARS-CoV-2 剤として早急な実用化が期待できる。また、私たちが発見した抗SARS-CoV-2感染作用のみならず、他の研究グループらにより4-HPRはCOVID-19におけるARDSのサイトカインストームを抑制する機能を持つことが示唆されている(Orienti et al. Int J Mol Sci, 2020)。これより、4HPRは抗ウイルス剤そしてサイトカインストーム抑制剤としてCOVID-19 重症化治療への適応が期待できる。
最後になりますが、本研究は、私がアメリカ国立衛生研究所に留学していた際の研究室の同僚である前田博士、土屋博士の3人で開始した研究です。出会いから10年以上たちますが、変わらぬ友情に感謝いたします。
文責:林 康広2021. Apr
医学部 内科学講座 消化器内科
「原発性胆汁性胆管炎に対するベザフィブラート投与と長期予後との関連」
Association of Bezafibrate with Transplant-Free Survival in Patients with Primary Biliary Cholangitis.
Tanaka A, Hirohara J, Nakano T, Matsumoto K, Chazouillères, O, Takikawa H, Hansen BE, Carrat F, Corpechot, C
J Hepatol.
2021 Apr 18;S0168-8278(21)00245-2
原発性胆汁性胆管炎(PBC)は、肝内小型胆管が自己免疫的機序によって障害され、肝内に胆汁が蓄積することによって肝臓が障害される疾患である。無治療の場合肝線維化が進行し肝不全に至り、肝移植を行わない限り救命できない。第一選択薬はウルソデオキシコール酸(UDCA)であり、70~80%の患者はUDCA治療に反応し予後は良好である。しかし20~30%の患者はUDCA治療に反応せず、有効な追加治療を行わない限り予後不良となる。日本では1999年、高脂血症に対して承認されているベザフィブラート(BZF)がPBCに対する生化学的改善効果を持つことが報告され、以来薬事承認を得ないまま事実上の第2選択薬として使用され、現在に至っている。その間、フランスのグループがUDCA無効PBCを対象として前向き比較対照試験を行い、2年間のBZF投与により生化学検査値および肝硬度の改善がみられたことを2018年に報告した。これを契機に、われわれはこのフランスのグループとの共同研究により、1990年代から累積された日本の後ろ向き大規模コホートを活用し、BZFの長期予後改善効果を検証した。
対象は3908例のPBC患者で、このうちUDCA単独投与、UDCA+BZF併用例はそれぞれ3162例、746例であった。背景因子を調整した結果、BZF併用はUDCA単独投与に比べ死亡ないし肝移植リスクをおよそ0.33程度に低下させたことが判明し、BZF併用によりPBC患者の長期予後が大きく改善することが明らかとなった。この結果は2020年のヨーロッパ肝臓学会でプレナリーセッション演題に選ばれるなど注目を集め、論文も消化器肝臓領域では2番目にIFの高い雑誌である J Hepatol(IF 20.582)にアクセプトされた。
BZFは既にジェネリック薬が発売されており企業による治験は期待できず、多くの時間・労力・費用を要する医師主導治験も困難な現状であり、後ろ向きではあるが大規模なコホートを用いたこのような研究デザインが最も強力なエビデンスを生み出す方法であろう。薬事承認が得られることは期待できないものの、今後診療ガイドラインの改訂につながる成果であった。
文責:田中 篤
2019. Mar-1
医学部 産婦人科学講座
「Fetal movement acceleration measurement (FMAM) recorderを用いたsmall-for-gestational児の胎動計測」
Counting fetal movements of small-for-gestational infants using a fetal movement acceleration measurement recorder.
Morita M., Ryo E., Kamata H., Seto M., Yatsuki K.
J Matern Fetal Neonatal Med.
2019 Mar 5:1-7.
我々は自宅で入眠中に胎動を測定できるFMAM recorderを用いた研究を世界に先駆けて行っている。本研究はsmall-for-gestational age (SGA)の胎動についての研究である。母体自覚による胎動減少とSGAが深く関係していることはよく知られているが、客観的検査としての超音波検査では胎動減少とSGAが関連しているかは明らかになっていない。超音波検査では測定時間が1時間程度で、胎動が十分に評価できたとは言えないからである。これに対してFMAM recorderは長時間の胎動計測が可能である。対象はSGA児を出産した女性13人。方法:(1)胎動に関する5つのパラメータ(胎動占有割合、平均胎動数、5分以上持続する無胎動の頻度、平均持続時間、最長持続時間)を、別の研究で作成した基準値曲線#1)上にプロットした。基準値曲線は正常妊婦64人から1晩あたり4時間以上計測できたデータを用いて作成している。(2)応答変数として胎動に関するパラメータ5つ、説明変数2つ(SGA群/正常群、妊娠週数)に対して線形回帰分析を行い、P値0.05未満を有意差ありと判定した。結果:SGA群では計38データ、275時間の記録が得られた。(1)胎動占有割合では14データ(36.8%)が基準値の10%tile未満であった。平均胎動数では13データが(34.2%)が10%tile未満であった。無胎動時間の頻度、平均持続時間、最長持続時間についてはそれぞれ12データ(31.6%)、13データ(34.2%)、15データ(39.4%)が基準値の90%tileを超えていた。(2)SGAは胎動占有割合と平均胎動数を減少させ、無胎動時間の頻度、平均持続時間、最長持続時間を増加させる要因であった。胎児発育不全では低酸素血症になりやすく、低酸素血症のため胎動が減少するといわれているが、胎児発育不全自体で胎動が減少するかはこれまで明らかではなかった。本研究の対象例は妊娠・分娩中に児が低酸素血症となっていないことを確認している。従って、本研究によって胎児に低酸素血症がなくても胎児発育不全は胎動減少と関連していることを証明した。
#1 Pediatr Res. 2018;83:961-968
文責:森田 政義
2019. Feb-2
医学部 眼科学講座
「加齢黄斑変性における房水中のサイトカイン濃度」
Aqueous Humor Levels of Cytokines in Patients with Age-Related Macular Degeneration.
Mimura T, Funatsu H, Noma H, Shimura M, Kamei Y, Yoshida M, Kondo A, Watanabe E, Mizota A.
Ophthalmologica.
2019;241(2):81-89
加齢黄斑変性は成人の失明原因の上位に位置する疾患である。本疾患においては血管新生が主な原因と考えられ、血管内皮増殖因子(VEGF)が重要な役割を果たしているものと考えられている。通常治療には抗VEGF抗体の硝子体注射が行われている。しかしこの治療に抵抗性の症例も存在し、またいくつかの研究では硝子体中のVEGFの上昇が認められない症例もあるとの報告もあるため、VEGF以外のほかの要素も本疾患の発症に関係あるのではないかと思われる。このような背景のもと、本研究ではVEGFを含めた加齢黄斑変性の症例とコントロールとして白内障の手術前の症例で房水(眼内を循環する水)を採取して、11種類のサイトカインを測定した。測定したサイトカインはVEGF, sVEGFR-1, sVEGFR-2, PGF, TNF-α, sICAM-1, MCP-1, IL-6, IL-8, IL-12, IL-13である。その濃度をコントロールと比較するのと同時に、加齢黄斑変性のタイプによる比較、および加齢黄斑変性の症例でサイトカイン同士の相関を検討した。加齢黄斑変性においてはコントロールと比較してVEGF系のサイトカインとMCP-1, IL-6,IL-8が有意に上昇していた。加齢黄斑変性のタイプによる違いは認められなかった。また加齢黄斑変性の症例の中では、sVEGFR-1はsVEGFR-2と、PGFはMCP-1とIL-8と、sICAM-1はMCP-1とIL-8と、MCP-1はIL-6とIL-8と有意な相関がみられた。結論として加齢黄斑変性では房水中のVEGFとVEGFレセプター 関連のたんぱく及び炎症関係のたんぱくの上昇がみられた。これらの結果から抗VEGF治療でも改善しない加齢黄斑変性の症例は何らかの炎症の要素が関与しているのではないかと推察され新たな治療法が必要となる可能性が示唆された。
文責:溝田 淳
2019. Feb-1
医学部 病理学講座
「尿路上皮癌では癌細胞のCD10発現は癌間質のCD10発現以上に癌進展と関連している」
Tumorous CD10 is more strongly related to the progression of urothelial carcinoma than stromal CD10
Kumagai-Togashi A, Uozaki H, Kikuchi Y, Watabe S, Numakura S, Watanabe M.
Anticancer Res.
2019 Feb;39(2):635-640
尿路上皮癌でのCD10発現の意義は議論が残っている。CD10はメタロペプチダーゼでの一つで、血球系以外でも発現している。これまでに我々は尿路上皮癌でのmiR-21発現が癌進展と関連することを報告している(Histopathology
69:993-9, 2016)。今回の研究では尿路上皮癌でのCD10発現の意義をmiR-21発現とも比較しながら、検討した。
232例の尿路上皮を対象とした。膀胱癌187例、尿管癌23例、腎盂癌22例からなる。TUR-Bt例と手術切除症例が含まれる。ティシューアレイを利用し、抗CD10抗体による免疫組織化学的検索を行った。癌細胞での発現と癌間質での発現をわけて評価し、癌の進展、予後との関係を検索した。発現の評価は強度スコアと陽性細胞の割合スコアを乗じたスコアを用いた。
癌細胞でのCD10高発現は25例(11%)、癌間質での高発現は11例(5%)で観察された。癌細胞でのCD10高発現は高ステージ(P=0.004)、異型度(P=0.017)、リンパ管侵襲(P=0.003)、血管侵襲(P<0.001)、予後不良(P=0.003)と関連していた。一方で、癌間質でのCD10発現は若めの年齢(P=0.013)、高ステージ(P=0.005)、リンパ管侵襲(P<0.001)、血管侵襲(P=0.008)、リンパ節転移(P=0.023)と関連があった。多変量での生存率解析では癌細胞のCD10発現、癌細胞でのCD21発現、癌間質でのmiR-21発現とステージが独立した予後因子であった。
尿路上皮癌では癌細胞でのCD10発現が癌間質でのCD10発現以上に癌の進行と関連し、独立した予後因子であることがわかった。今後、CD10やmiR-21をターゲットとする治療が想定される。
文責:宇於崎 宏
2019. Jan-2
ちば総合医療センター 外科学講座
「ステージII/III胃癌患者の術後補助化学療法中における好中球/リンパ球比の上昇が予後不良である事を示す」
An increase in the neutrophil-to-lymphocyte ratio during adjuvant chemotherapy indicates a poor prognosis in patients with stage II or III gastric cancer.
Mori M, Shuto K, Kosugi C, Narushima K, Hayashi H, Matsubara H, Koda K.
BMC Cancer.
2018 Dec 17;18(1):1261.
癌の進展と全身炎症反応とは密接に関係しており、様々な全身炎症反応指標と予後あるいは治療効果との関連性について、これまでに多くの癌腫で報告されてきた。特に、全身炎症反応指標の1つである好中球/リンパ球比(NLR)や血小板/リンパ球比(PLR)は、胃癌においても治療前のNLRあるいはPLR値と予後との関連性について、数多く報告がなされている。しかし、胃癌治療中におけるNLR・PLR値の変動と予後に関する報告はいまだ少ない。このことから、胃癌術後補助化学療法中におけるNLR・PLR値の変動と予後との関連性について検討を行った。対象は、2006年1月から2017年1月の間にS-1単剤による術後補助化学療法を施行したStage II/III胃癌症例100例。術前のNLR・PLR値を各々pNLRおよびpPLRとし、S-1投与開始時のNLR値とpNLRとの比をiNLR、S-1投与開始時のPLR値とpPLRとの比をiPLR、S-1投与終了時のNLR値とS-1投与開始時のNLR値との比をfNLR、S-1投与終了時のPLR値とS-1投与開始時のPLR値との比をfPLRと定義した。また、pNLRおよびpPLRのcutoff値を各々の中央値、またiNLR・iPLR・fNLR・fPLRのcutoff値を1とし、各NLRおよびPLRにおいてcutoff値以上(NLR・PLR値≧cutoff値)の症例をpositive(+)群、cutoff値未満(NLR・PLR値<cutoff値) の症例をnegative(-)群として2群に分類し、各NLRおよびPLRを含めた様々な臨床学的因子ついて、S-1補助化学療法における再発および予後との関連について統計学的解析を行った。各NLRと臨床学的因子との関係については、fNLRにおいて再発および予後との関連性が、各PLRと臨床学的因子との関係については、pPLRにおいてpTおよびpStageとの関連性があることが判明した。また、単変量解析から予後因子としてTumor size(60mm以上)、Histological type、fNLRが、再発因子としてfNLRが同定された。さらに、多変量解析からfNLRは、独立した再発および予後因子であることが判明した。この結果から、S-1補助化学療法中におけるNLR値の上昇は、簡便かつ安価に測定できる再発および予後因子の1つとして有用である可能性が示唆される事となった。
文責:森 幹人
2019. Jan-1
薬学部 医薬化学講座 生体分子化学研究室
「アルツハイマー病の主要病因タンパク質Tauの微小管結合領域の構造転移と線維形成様式にD-アミノ酸が及ぼす影響の解析」
Effect of site-specific amino acid D-isomerization on β-sheet transition and fibril formation profiles of Tau microtubule-binding repeat peptides.
Tochio N, Murata T, Utsunomiya-Tate N.
Biochem Biophys Res Commun.
2019 Jan 1;508(1):184-190.
生体内には微量ながらL-体からD-体に異性化したアミノ酸(特にAsp、Ser)が存在する。このD-アミノ酸の蓄積はアルツハイマー病の患者より得られた病因タンパク質Tau やAβにおいても見出されていることが報告されている。そこでアルツハイマー病の発症・進行とD-アミノ酸との関連性の観点から、アルツハイマー病発症に関わる神経原線維の主要構成タンパク質Tauに焦点をあて、その線維形成のコアとなる微小管結合領域 (Tau R) を形成するアミノ酸のD-体への異性化が、Tau Rの立体構造転移や発症につながる線維形成過程に及ぼす影響を解析した。
本研究ではTauの線維化に不可欠な微小管結合領域Tau R2とTau R3を対象として、円偏光二色性分光法(CD)による立体構造解析、および蛍光試薬チオフラビンT (ThT)を用いたThTアッセイ法による線維形成現象の計測を行った。
その結果、Tau R2のAsp283およびAsp295のD-体への異性化により、ランダムコイルからβシートへの立体構造転移が著しく遅くなり、同時に線維形成も遅くなることが明らかになった。Tau R3においてもSer320のD-体への異性化により、ランダムコイルからβシートへの立体構造転移および線維形成は遅くなった。一方、Tau R3のAsp314、 Ser316、あるいはSer324がD-体に異性化するとシートへの立体構造転移および線維形成は著しく早くなるという興味深い結果を得た。
本研究により、アルツハイマー病発症に繋がるTau Rの立体構造転移に基づく線維形成速度は、Tau R2やTau R3を形成するアミノ酸の部位特異的なD-体への異性化により、制御されることを明らかにできた。これはアルツハイマー病の発症や進行の抑制に関わる重要な分子基盤情報となる。
文責:楯 直子
2018. Dec-3
医学部 外科学講座 肝胆膵グループ
「肝転移(大腸癌・神経内分泌腫瘍原発を除く)に対する1639例の肝切除成績」
Outcomes of 1639 hepatectomies for non-colorectal non-neuroendocrine liver metastases: a multicenter analysis.
Sano K, Yamamoto M, Mimura T, Endo I, Nakamori S, Konishi M, Miyazaki M, Wakai T, Nagino M, Kubota K, Unno M, Sata N, Yamamoto J, Yamaue H, Takada T; Japanese Society of Hepato-Biliary-Pancreatic Surgery.
J Hepatobiliary Pancreat Sci.
2018 Nov;25(11):465-475.
悪性腫瘍の他臓器転移は肝転移が最も多い。しかし大腸癌と神経内分泌腫瘍以外の肝転移に関しては肝切除の適応となりにくく治療成績の報告が少ないため、肝切除適応の決定に窮することがある。今回日本肝胆膵外科学会主導で全国的他施設調査をおこないビッグデータを集積し解析した。
1639例の肝切除が対象であるが、2001年から2010年までの10年間に日本肝胆膵外科学会高度技能専門医修練施設(肝胆膵外科における高難度手術を毎年30例以上おこなっている施設)である213施設中124施設でおこなわれた肝切除例であり、そのデータを2015年より後方視的に集積した。
肝切除術後死亡率は1.5%、合併症発生率は25%であった。1639肝切除が1539人の患者におこなわれ、その原発巣は多い順に、胃癌(35%)、GIST(13%)、胆道癌(10%)、卵巣癌(7%)、膵癌(5%)と続いた。予後が追跡できた1465人の肝切除後の5年生存率は41%(生存期間中間値45か月)、5年無再発生存率は18%(無再発生存期間中間値9か月)であった。原発巣が胃癌、GIST、胆道癌、卵巣癌、膵癌での肝切除後5年生存率は、それぞれ32%、72%、17%、52%、31%と原発別で大きく異なった。さらにそれぞれの予後不良因子も、多変量解析での結果、原発別で大きく異なることがわかった。
当論文の欠点として対象が肝切除にいたった肝転移症例という極めて大きなバイアスがある、というものをはじめとして、原発巣のデータに乏しいこと、原発によっては症例数が少なすぎて統計的に処理できない、などが挙げられる。しかし、現時点で世界一ビッグデータの解析であること、直近のデータ(2000年以降)の解析であること、原発巣別の解析にこだわったことなどから、今後の実臨床において肝臓外科医のみならず悪性疾患を扱う医療関係者に間違いなく参考となると確信する。(日本肝胆膵外科学会プロジェクト研究)
文責:佐野 圭二
2018. Dec-2
医学部 形成・口腔顎顔面外科学講座
「皮下注射したヒアルロン酸フィラーのin vivo動態および生体刺激効果の評価」
Evaluation of the In Vivo Kinetics and Biostimulatory Effects of Subcutaneously Injected Hyaluronic Acid Filler.
Mochizuki M, Aoi N, Gonda K, Hirabayashi S, Komuro Y.
Plast Reconstr Surg.
2018 Jul;142(1):112-121
ヒアルロン酸フィラー(HAF)を用いた顔面の除皺術では皺に沿って皮内に線状に注入した場合、半年から一年で吸収され、頻回に治療を必要とするのが一般的である。しかし、顔面陥凹や鼻、顎、頬など顔面パーツのaugmentationの治療に皮下にbolusに注入すると長期に持続することが臨床面ではしばしば観察される。しかし、なぜボーラス注射後にこのような長期間にわたり容量増加効果が持続するのかは不明である。そこで、今回は動物実験を用いて皮下に注入されたヒアルロン酸の経時的なボリューム及び組織学的な変化を調べた。
6 週齡のラットの背部皮下にヒアルロン酸フィラー0.2mlをBolusで注入した(N=4)。各time point (注入直後、4, 8, 16, 32, 64週後) において、MRIで形態変化と容量測定の観察を行うとともに、組織切片の作成を行い、被膜形成、石灰化、線維化の有無やその他の組織学的変化を調べた。
皮下にボーラスで注入されたヒアルロン酸は平坦化したが、注入後64週でも容積は保たれていた。組織学的には、石灰化などは見られず、ヒアルロン酸がスカフォールドとして作用する事で、線維芽細胞が遊走、新生し、コラーゲンの誘導、血管新生を起こし、その後脂肪の新生が起こり、注入スペースが自己組織に置換されていた。今回の実験結果より、ヒアルロン酸を注入する事で、ドナーを必要とせず、低侵襲、短時間で長期に効果が持続する組織の増大や形態の改善が可能であると考えられた。
文責:望月 正人
2018. Dec-1
薬学部 医療薬学講座 薬物動態学研究室
「ヒトiPS細胞から分化・誘導した血液脳関門細胞で機能する薬物トランスポーター」
Expression and Functional Characterization of Drug Transporters in Brain Microvascular Endothelial Cells Derived from Human Induced Pluripotent Stem Cells.
Kurosawa T, Tega Y, Higuchi K, Yamaguchi T, Nakakura T, Mochizuki T, Kusuhara H, Kawabata K, and Deguchi, Y.
Mol. Pharm.
2018 Nov 12; 12(12) [Epub ahead of print]
薬物の脳移行性は血液脳関門(BBB)の物質輸送機能に左右される。BBBの解剖学的実体は細胞同士が密着結合した脳毛細血管内皮細胞であるが、輸送機能を担うのは細胞膜に発現する様々な輸送担体である。BBBの研究は、これまでマウスやラット、ウシなどの動物を用いて進展してきた。しかし、輸送担体の発現には種差があることからヒトのBBBの機能については推測の域を超えない。そのため、ヒトのBBB機能が再現できるモデル細胞が嘱望されていた。
近年、ヒトiPS細胞から脳毛細血管内皮細胞を分化誘導する方法が報告された。しかし、このヒトiPS細胞由来脳毛細血管内皮細胞(hiPS-BMECs)の物質輸送機能はほとんどわかっていない。我々はLippmannらの共分化法(Nat Biotechnol 30, 783 (2012))に基づいて培養条件を最適化することで、iPS細胞から脳毛細血管内皮細胞を得た。このhiPS-BMECsは強固な細胞間密着結合能を有するとともに、内皮細胞の形態を保持していた。さらに、栄養物質および薬物を輸送する29種類のSLCトランスポーター、くみ出しポンプとして働く5種類のABCトランスポーター、および7種類の輸送性レセプターの発現を確認した。その中でも我々は中性アミノ酸トランスポーター(LAT1)、塩基性アミノ酸トランスポーター(CAT1)、酸性アミノ酸トランスポーター(GLAST)、H+/有機カチオン交換輸送体、薬物排出トランスポーター(BCRP)がこの細胞で十分に機能していることを多角的な方法で実証した。
hiPS-BMECsの輸送機能解析をさらに進めていくことで、これまで困難を極めた薬物のヒト脳移行性の予測が非臨床試験の段階で可能になるとともに、BBBの破綻が原因となる中枢疾患の解明および治療への貢献が期待できる。
文責:出口 芳春,黒澤 俊樹,手賀 悠真
2018. Nov-2
薬学部 生命薬学講座 生物化学研究室
「スフィンゴミエリン合成酵素1とグルコシルセラミド合成酵素のヘテロ複合体形成はリン脂質合成を促進し、糖脂質合成を抑制する」
Complex formation of sphingomyelin synthase 1 with glucosylceramide synthase increases sphingomyelin and decreases glucosylceramide levels.
Hayashi Y, Nemoto-Sasaki Y, Matsumoto N, Hama K, Tanikawa T, Oka S, Saeki T, Kumasaka T, Koizumi T, Arai S, Wada I, Yokoyama K, Sugiura T, Yamashita A.
J Biol Chem.
2018 Nov 9;293(45):17505-17522
スフィンゴ脂質はコレステロールとともに細胞膜上で脂質ラフトと呼ばれるマイクロドメインを構成する。この膜ドメインは機能タンパク質を集積し、膜を介するシグナル伝達、細菌やウィルスの感染、細胞内小胞輸送などの重要な役割を果たしている。スフィンゴリン脂質とスフィンゴ糖脂質は、共通の基質であるセラミドにホスホコリン(スフィンゴミエリン: SM)かグルコース(グルコシルセラミド: GlcCer)のいずれかが結合することによって産生される。私達はこの反応を担う2つの酵素スフィンゴミエリン合成酵素1 (SMS1) とグルコシルセラミド合成酵素 (GCS)に注目し、SMとGlcCerの産生振り分け制御機構を解析した。免疫沈降法および蛍光タンパク質再構成法より、SMS1とGCSがヘテロ複合体を形成しうること、そして、SMS1のN末端に存在するsterile alpha motif (SAM) 領域がGCSとの複合体形成に重要である事を明らかにした。続いて、SMS1とGCSのヘテロ複合体の形成が、SMおよびGlcCer産生に与える影響を調べるため、CRISPR/Cas9ゲノム編集を利用してHEK293T細胞からSMS1/GCS ダブルノックアウト細胞を樹立した。FKBP (FK506-binding protein)-SMS1キメラ蛋白質とFRB (FKBP-rapamycin binding protein)-GCSキメラ蛋白質をSMS1/GCSダブルノックアウト細胞に発現させ、ラパマイシン存在下でヘテロダイマーを形成させると、SM産生が促進することを見出した。また、SMS1とGCSとのキメラタンパク質ではSM産生が促進するが、GlcCer産生は抑制された。GlcCer産生量は、キメラタンパク質におけるSMS1とGCS間の距離の長さに依存することから、SMS1とGCSが極めて近距離に局在するヘテロ複合体においてGlcCer産生が抑制されることが示唆された。以上から、SMS1とGCSのヘテロ複合体はリン脂質産生を促進し、糖脂質産生を抑制する役割を果たしていることが考えられた。
私達はSMSホモダイマー形成の研究も報告しており (Hayashi et al., J Biol Chem, 292, 1122-1141, 2017)、酵素の複合体の機能解析に関してご興味がございましたら、お気軽にご連絡ください。
文責:林 康広, 山下 純
2018. Nov-1
医学部 生理学講座
「高等霊長類様の皮質脊髄路―運動ニューロン間直接シナプスがより下等な哺乳類においても一過性に形成される」
Higher primate-like direct corticomotoneuronal connections are transiently formed in a juvenile subprimate mammal.
Murabe N, Mori T, Fukuda S, Isoo N, Ohno T, Mizukami H, Ozawa K, Yoshimura Y, Sakurai M.
Sci Rep.
2018 Nov 8;8(1):16536.
大脳皮質からの下降路である錐体路はいわゆる「随意運動」に必須の経路であり哺乳類になって初めて出現した系統発生的に新しい下降路である。この錐体路が中枢神経系の最終出力である運動ニューロンに直接接続することはよく知られているが、これがヒトをはじめとする高等霊長類に限られたことで、他の哺乳類では介在細胞を介して多シナプス性に運動ニューロンを駆動することは意外に知られていない。
我々は齧歯類(ラット、マウス)においても幼若期には錐体路と運動ニューロン間の直接シナプスが存在することを脊髄スライス標本を用いてパッチクランプ(ホールセル記録)により初めて証明した。この結合のその後における変化はこの標本が生後2週間ほどしか使用できないこともあり研究が不可能であったが、我々は最近利用可能となった遺伝的に改変した狂犬病ウィルスのシナプス間逆行性標識(筋肉に注入→運動ニューロンに輸送→運動ニューロンにシナプスしている細胞にのみ感染しその細胞を標識)を利用して大脳皮質の細胞を標識し、少なくとも生後7日齢にはこの結合が存在し、遅くとも22日齢までには消失することを示した。この結合は前肢筋(特に遠位筋)支配運動ニューロンには強いが、後肢筋支配運動ニューロンでは弱いこと、また直接結合している大脳皮質細胞の分布においても高等霊長類と類似していた。
進化に伴い新しい神経結合が加わりより高度な機能を獲得していくが、ゲノムにその情報を新たに書き加えることは大変困難であり、余剰な神経結合を有し後に除去される幼若期の神経結合を残す方が容易であろう。我々の発見した下等哺乳類幼若期に一時的にみられる錐体路—運動ニューロンシナプスは高等霊長類のそれと極めて類似しており、この結合が系統発生的な原型となっている可能性が示唆された。
文責:桜井 正樹, 村部 直之
2018. Oct-2
医療技術学研究科 臨床検査学専攻
「栃木県における外耳道真菌症の原因菌であるアスペルギルス種に対する分子生物学同定と抗真菌薬剤感受性試験」
The Molecular Identification and Antifungal Susceptibilities of Aspergillus Species Causing Otomycosis in Tochigi, Japan.
Hagiwara S, Tamura T, Satoh K, Kamewada H, Nakano M, Shinden S, Yamaguchi H, Makimura K.
Mycopathologia.
2018 Oct 5.[Epub ahead of print]
外耳道感染症の約9~13%は,外耳道アスペルギルス症を主とした真菌症であり,その起因菌は,従来形態学に基づいて同定されてきた。しかし近年,形態学では識別できない「隠蔽種」と言われる菌種が問題となっている。特にAspergillus属の隠蔽種を同定するためには,βチューブリン遺伝子などの特殊な配列を用いた分子同定を行う必要がある。すでに侵襲性アスペルギルス症では,数多くの隠蔽種の報告がなされているが,外耳道アスペルギルス症の起因菌に対して,分子同定を行った報告は極めて少ない。また,外耳道アスペルギルス症治療上の基本は,抗真菌薬による局所療法薬である。そこで本研究は,2013年から2016年の間に,栃木県済生会宇都宮病院耳鼻科を受診し,耳漏分泌物の培養から形態学的にAspergillus属と同定された30株に対して,隠蔽種の識別が可能となる分子同定と併せて,新規アゾールを含む12薬剤に対する薬剤感受性を検討した。
被験菌は形態学的に,A. niger sensu lato (20株),A. terreus sensu lato (7株),およびA. fumigatus sensu lato (3株)と同定された.βチューブリン部分配列を標的配列とした分子同定では,A. niger sensu lato 20株のうち,A. niger sensu srtictoが12株,A. tubingensis が8株であることが示された。A. terreus sensu lato およびA. fumigatus sensu latoは,被験株数が限られていたためか,各々全株とも代表種であるA. terreus sensu stricto あるいはA. fumigatus sensu strictoであった.すなわち隠蔽種としてA. niger sensu latoの40%にA. tibingensisが見出された。一方,抗真菌薬感受性は,各菌種共にミカファンギン(MCFG),エフィナコナゾール(EFCZ), ラノコナゾール(LNCZ)およびルリコナゾール(LLCZ)に対する最小有効濃度(MEC)および最小発育阻止濃度(MIC)が低値を示した。A. niger sensu strictoとA. tubingensisを比較するとイトラコナゾール(ITCZ), ボリコナゾール(VRCZ), ミコナゾール(MCZ)およびテルビナフィン(TRB)に対してA. tubingensがやや高いMIC値を示した。また,同2菌種は他のAspergillus属に比して,ラブコナゾール(RVCZ)に対してやや高いMIC値であった。A. fumigatusは,フルシトシン(5-FC)に耐性であり,TBFに対して他の菌種に比べて高いMIC値を示した。以上、菌種により感受性が異なっていることより,適切な抗真菌薬選択のためには分子生物学的同定が必要であることが示された。また,各菌種共に局所療法薬ではEFCZ,LNCZまたはLLCZに対して非常に低いMICを示したことから,これら抗真菌薬の外耳道アスペルギルス症を代表とする表在性アスペルギルス症治療上の有用性が示唆された。
文責:萩原 繁広, 槇村 浩一
2018. Oct-1
医学部 微生物学講座
「疥癬の原因となるヒゼンダニ(日本のホンドタヌキ由来)のミトコンドリア全ゲノム解析:2つのtRNA(アラニンとチロシン)の新同定」
The complete mitochondrial genome of Sarcoptes scabiei var. nyctereutis from the Japanese raccoon dog: Prediction and detection of two transfer RNAs(tRNA-A and tRNA-Y).
Ueda T, Tarui H, Kido N, Imaizumi K, Hikosaka K, Abe T, Minegishi D, Tada Y, Nakagawa M, Tanaka S, Omiya T, Morikaku K, Kawahara M, Kikuchi-Ueda T, Akuta T, Ono Y.
Genomics.
2018 Sep 15. [Epub ahead of print]
疥癬(かいせん)は、ヒゼンダニSarcoptes scabieiが、ヒトを含む多くの哺乳動物に感染する皮膚疾患である。現在の診断法であるダーマスコープや皮膚生検による顕微鏡診断の検出力は、50%以下であるといわれており、診断法の改善が必要であると考えられているが、研究者人口も少なく分子生物学的な知見も乏しい。そこで、ヒゼンダニのゲノムを次世代シーケンサーにより解析し遺伝子データベースの構築をおこなった。
疥癬患者からの多数のヒゼンダニの分離は不可能であるが、日本のホンドタヌキは疥癬が重症蔓延化していることに着目し、タヌキヒゼンダニ(Sarcoptic scabiei var. nyctereutis)を大量採取し、ミトコンドリアの全ゲノム配列を決定した(Genbank アクセッション番号AP017940)。ゲノムサイズは、13,837bpの環状型で、AT含量80.61%であり、13個のタンパク質、22個のtRNA、2個のrRNA、プロモーターから構成されることを明らかにした。特に、2つのtRNA(アラニンとチロシン)は、これまで存在しないと考えられていたが、新たなin silico予測とRT-PCR、配列解析、ノーザンブロッティング解析により、その存在を世界で初めて証明した。新たにアノテーションしたゲノム構造から、ヒゼンダニは、ハウスダストの原因となるコナヒョウヒダニ(D. farinae)およびウサギキュウセンヒゼンダニ(P. cuniculi)とも近縁であるという新説も提唱した。Cytochrome c oxidase 1遺伝子の系統樹解析から東アジアと豪州から分離されたヒゼンダニに近縁であることも示した。ヒト、イヌヒゼンダニのミトコンドリアゲノムと99%一致し、ヒト→イヌ→ホンドタヌキへの水平感染の可能性も示唆され、疥癬の感染拡大の理解に役立つ新たな遺伝学的基盤データを取得した。
文責:芥 照夫
2018. Sep-2
医学部 皮膚科学講座
「ロドデノール誘発性脱色素斑に対するビマトプロスト外用の有効性の検討」
Open-label pilot study to evaluate the effectiveness of topical bimatoprost on rhododendrol-induced refractory leukoderma.
Fukaya S, Kamata M, Kasanuki T, Yokobori M, Takeoka S, Hayashi K, Tanaka T, Fukuyasu A, Ishikawa T, Ohnishi T, Iimuro S, Tada Y, Watanabe S.
J Dermatol.
2018 Aug 29. [Epub ahead of print]
Rhododendrol(以下RD)は、化学名で4-(4-ヒドロキシフェニル)-2-ブタノールと表され、メラニン合成を阻害する働きがある。2013年まで美白化粧品として販売されていたが、使用者のおよそ2%でRDを外用した部分やその周辺の皮膚に脱色素斑が現れた。多くはRDの外用を中止しただけで改善したが、一部の人ではRDの外用を中止した後も脱色素斑が残った。ビマトプロストはプロスタグランジンF2α類縁体であり、緑内障の治療だけでなく美容上の理由から睫毛貧毛症に使用される。ビマトプロストは、副作用として虹彩の色素沈着に加えて、皮膚色素過剰が報告されている。したがって、我々は治療抵抗性のRD誘発性脱色素斑に対するビマトプロスト外用の効果を検討することとした。対象は、RD外用後に使用部やその周辺に脱色素斑が生じ、中止した後も改善のなかった患者とし、日本人女性患者11名を組み入れた。平均年齢55歳(33歳~75歳)、ロドデノール使用平均期間は23ヶ月、ロドデノール使用開始から発症までの平均期間は9ヶ月であった。脱色素斑にビマトプロスト0.03%溶液を最初の3ヶ月間は1日1回外用し、その後の3ヶ月間は1日2回外用とした。10人の患者が6ヶ月間のビマトプロスト外用を完了した。評価は、ビマトプロスト製剤塗布開始後6か月の時点に、主治医評価と色差計の値で行った。主治医評価において、4人の患者でビマトプロスト外用部位で改善が見られた。対照部は全例で改善はみられなかった。色差計の結果において、ビマトプロスト外用部位では脱色素斑の改善傾向と赤色が増す傾向がみられ、青色や黄色の成分に変化は見られなかった。対照部位においても脱色素斑の改善がみられたが、赤色も含め色調の変化はみられなかった。また、脱色素斑の改善傾向と季節(紫外線)とには関連が認められなかった。以上より、RD誘発性脱色素斑に対してビマトプロスト外用の有効性が示唆された。今回の試験では組み入れ症例数が少なく、期間も6ヶ月と短いため、有効性や安全性に関して明確な結論を得るにはさらに大規模な臨床試験が必要である。
文責:深谷 早希
2018. Sep-1
医学部 内科学講座 消化器内科グループ
「日本人原発性胆汁性胆管炎患者の自覚症状と生活の質の解析」
Symptoms and health-related quality of life in Japanese patients with primary biliary cholangitis.
Yagi M, Tanaka A, Abe M, Namisaki T, Yoshiji H, Takahashi A, Ohira H, Komori A, Yamagiwa S, Kikuchi K, Yasunaka T, Takaki A, Ueno Y, Honda A, Matsuzaki Y, Takikawa H.
Sci Rep.
2018 Aug 22;8(1):12542.
原発性胆汁性胆管炎(primary biliary cholangitis; PBC)は、肝内小型胆管が自己免疫的機序によって障害され、胆汁がうっ滞することによって肝臓が障害される疾患である。PBCの患者は皮膚掻痒、疲労感など、健康関連QOL(HRQOL)を損なう可能性のある様々な自覚症状を経験していることが知られている。欧米ではPBC患者の症状およびHRQOLについて多数の先行研究があるが、アジア諸国ではこのような研究は今まで行われていなかった。今回我々は日本人PBC患者の自覚症状とHRQOLとの評価を目的とした多施設共同研究を行った。
日本人PBC患者446例を対象として、PBCに特化した自記式自覚症状調査票であるPBC-40及び全般的健康関連QOL調査票であるSF-36を配布し記入を依頼、あわせて臨床情報を収集して、各種自覚症状・HRQOLと病態との関連を検討した。その結果、日本人PBC患者ではおよそ20?50%が中等度以上の疲労、皮膚掻痒感、認知機能低下などの症状を自覚していた。PBC-40ではスコアが高いほど症状が強いと判断されるが、スコアは感情領域で最も高く、次いで疲労領域であった。多変量解析では、女性、若年での診断、血清アルブミンの低値が疲労スコア高値と有意に関連し、長期のフォローアップ期間、アルブミン低値が掻痒スコア高値と関連していた。SF-36を用いて測定されたHRQOLも身体的側面、社会役割で低下していた。
PBCの治療目標は患者個々の予後および自覚症状・HRQOLに応じた個別化治療の実現であり、本研究によりそのための重要な情報が得られた。その一方で、本研究は英国および他の地域における同種研究との比較を通じてPBCにおける自覚症状の病因解明に寄与する可能性があり、同一プロトコルを用いた自覚症状・HRQOLの国際比較研究が待たれる。
文責:八木 みなみ
2018. Aug-2
医学部 救急医学講座
「救急室での外傷手術が手術の適時性にあたえる影響」
Performing trauma surgery in the emergency room impacts the timeliness of surgery.
Ito K, Nakazawa K, Nagao T, Chiba H, Miyake Y, Sakamoto T, Fujita T.
Journal of Surgical Research.
2018 Aug 3;232:510-516.
日本の多くの救命救急センターでは、外傷初療室は手術室仕様になっており、ほとんどの緊急止血術が救急部門で可能である。一方、北米では、緊急室開胸などを除き、外傷初療室での手術はめったに行われない。本邦では当たり前のように行われていることに疑問を抱き、そのアウトカムを明らかにしたことに本論文の意義がある。
2013年から2017年まで、50例の救急室手術症例(ER群)と55例の手術室手術症例(OR群)を比較した。ER群のほうが手術開始までの時間が短く(43分対109分)より院内死亡率が高かった。(38.2%対0%)より緊急度の高い重症症例ほどERで手術されていたと考察される。
帝京大学病院高度救命救急センターでは、2017年よりHybrid-ERシステムが導入された。本論文はこれより以前の治療成績である。Hybrid-ERシステム導入により、さらなる時間短縮が期待され、救命率向上の可能性がある。
文責:藤田 尚
2018. Aug-1
医療技術学研究科 診療放射線学専攻 医学物理グループ
「超解像を利用したコーンビームCTの画質改善」
Image quality improvement in cone-beam CT using the super-resolution technique.
Oyama A, Kumagai S, Arai N, Takata T, Saikawa Y, Shiraishi K, Kobayashi T, Kotoku J.
J Radiat Res.
2018 Jul 1;59(4):501-510.
典型的に30回ほどの照射が治療ごとに要求される外部放射線療法においては,治療計画時に撮影したCT画像と,照射時の患者の体内を同じにそろえることは容易ではない.例えば,腸内のガスの存在は,治療計画時の想定を大きく変えることになるため,潜在的な危険を孕んでいる.そこでIGRTと呼ばれる現行の標準的な治療法では,患者セットアップのために,コーンビームCTと呼ばれる小型で特殊なタイプのCT装置を使い,毎回の患者の状態を確認するのだが,このコーンビームCTは,画質が悪いという欠点があった.この問題に対し,我々の研究グループは,コーンビームCTの画像の辞書と呼ばれる画像基底のようなものを用意し,スパースな画像表現を見つけた後,治療計画CT画像の辞書で対応する部分を置換する超解像と呼ばれるスパースコーディングの手法を用いて,画質改善を行った.改善された画像は,最新の患者の体内の幾何情報を見事に保持しており,画質は治療計画CTに迫るものであった.
本学医学物理グループは,数学,情報,物理を基盤とするアプローチで,現代医療を前進させるための研究を行っています.ご興味のある方は,ご連絡ください.
文責:古徳 純一
(kotokuATmed.teikyo-u.ac.jp)
2018. Jul-3
溝口病院 眼科学講座
「黄斑上膜における歪視の指標としての網膜内顆粒層厚および接線方向網膜移動との関連」
Inner Nuclear Layer Thickness, a Biomarker of Metamorphopsia in Epiretinal Membrane, Correlates With Tangential Retinal Displacement.
Ichikawa Y, Imamura Y, Ishida M
Am J Ophthalmol.
2018 Jun 8;193:20-27.
歪視は黄斑上膜の主要な症状であり、硝子体手術で治療がうまく行えたとしても訴えが残ることが多い。以前、我々は黄斑上膜術後の網膜の接線方向への移動と歪視に有意な相関があることを報告している。今回は歪視と網膜内顆粒層厚、網膜外層厚および接線方向の網膜移動の関連について報告した。歪視の定量化はMチャートを用いて行った。網膜の各層の厚さの測定は光干渉断層計(Optical coherence tomography以下OCT)で行い、黄斑中心から240µmの上方、下方、耳側、鼻側の4点を計測した。網膜の接線方向移動の測定は、OCTの近赤外光網膜画像上で黄斑中心をほぼ垂直・水平に交差するような網膜血管分岐部または交差部を点とする2 点を決め、その2 点間の距離を測定し術前後で比較した。硝子体手術は23または25Gの経結膜小切開で行い、全例で黄斑上膜と内境界膜を剥離した。術前の網膜内顆粒層厚は、術前と術後3ヶ月のMチャート値と厚いほどMチャート値が大きいという有意な相関があった。術前の網膜内顆粒層厚とその術後3ヶ月の変化率は、術後3ヶ月の網膜移動率と厚いほど移動するという有意な相関があった。網膜外層厚はどの時点でもMチャート値との相関はなかった。これらより、歪視を引き起こす原因として網膜内層が関与していることが明らかとなり、網膜内顆粒層厚を歪視の評価の指標として用いることができることが示された。網膜内顆粒層の形態変化は、網膜内で光ファイバーとして機能していると考えられているミュラー細胞の変形と関連していると推測され、ミュラー細胞の変形が歪視の原因となっている可能性があると考えられた。
本学医学部溝口病院眼科では網膜硝子体疾患の外科的治療を多く手がけており、上記のような病態や機能の解明や術後視機能改善につながるような臨床研究を積極的に行っております。ご興味のある方はご連絡ください。
文責:石田 政弘
(ishidamATmed.teikyo-u.ac.jp)
2018. Jul-2
医学部 放射線科学講座
「緊急経カテーテル動脈塞栓術における自動ナビゲーションソフトの有用性の検討」
Efficacy of Automated Supplying Artery Tracking Software Using Multidetector-Row Computed Tomography Images for Emergent Transcatheter Arterial Embolization.
Tanahashi Y, Kondo H, Yamamoto M, Osawa M, Yokoyama T, Sugawara T, Kawada H, Goshima S, Matsuo M, Furui S, Oba H.
Cardiovasc Intervent Radiol.
2018 Jul 10. [Epub ahead of print]
TAE(Transcatheter arterial embolization)は低侵襲に動脈性出血のコントロールが可能であり,危機的産科出血や外傷をはじめとする救急症例において広く施行されている.緊急TAEにおいては全身状態が不良な症例が多く速やかな治療(止血)を要する.そのためにはいかに速くカテーテルを出血源まで到達させられるか,が重要となる.
近年,人工知能(artificial intelligence;AI)技術の発展を背景として,自動血管追跡機能を応用した血管内治療ナビゲーションを目的とした半自動CT画像解析ソフトが開発されている.我々は画像解析ソフトによるナビゲーションが緊急TAEの手技時間短縮に寄与し,さらには被ばく量低減や救命率向上につながると考え,その正確性や解析時間について検討した.
その結果,自動ナビゲーションソフトの責任血管同定精度は,自動血管抽出の際に若干の修正を加えればIVR(Interventional radiology)医の読影・評価と同等であり,かつ5分以内にナビゲーション画像を作成することが可能であった.血管抽出の修正にIVRの細かい知識は必要ないため,若手IVR医や診療放射線技師による操作が可能と考えられた.夜間・休日に施行される緊急TAEでは十分な読影時間や人手がないことも多く,そのような場面においてナビゲーションソフトは特に有用であると考えられる.
本学医学部放射線科学講座では、上記のような臨床に関連する研究を多く行っています。少しでも興味がありましたら、ご連絡ください。
文責:近藤 浩史
(hoshasenATmed.teikyo-u.ac.jp)
2018. Jul-1
医学部 生化学講座
「DNA損傷刺激により、GADD45Aを介して、培養副腎皮質腫瘍細胞株(H295R)において、コルチゾール分泌能が増大する」
DNA damage response induced by Etoposide promotes steroidogenesis via GADD45A in cultured adrenal cells.
Tamamori-Adachi M, Koga A, Susa T, Fujii H, Tsuchiya M, Okinaga H, Hisaki H, Iizuka M, Kitajima S, Okazaki T.
Sci Rep.
2018 Jun 25;8(1):9636.
副腎皮質ステロイドホルモンの一種である糖質コルチコイド(コルチゾール)は、視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA axis)によって制御されており、免疫反応、炎症などの生体に与えられたストレスを緩和する方向へ導く。特にストレス応答の際に活性化され、脳下垂体から放出されるACTH刺激→副腎皮質細胞のACTH受容体(MC2R)の活性化→cAMP濃度の上昇→プロテインキナーゼA (PKA)の活性化→ステロイド合成関連因子発現の上昇により、副腎皮質から分泌される。近年、加齢に伴う、うつ、不安、神経変性疾患、免疫、代謝性疾患に、糖質コルチコイドの関与が示唆される報告がなされており、老化における役割が注目されている。そこで本研究では、糖質コルチコイドの合成系の老化に伴う変化について解析した。
まず、ヒト副腎皮質腫瘍細胞株(H295R細胞)の培養系において、DNA損傷刺激としてエトポシド(EP)により薬剤性細胞老化を惹起したところ、ステロイド合成系が活性化され、コルチゾールの産生分泌が増加することを見出した。さらにこの反応は、ストレス因子GADD45A-->ストレスキナーゼp38MAPKを介するが、PKAを介さず、HPA axis非依存的であり、副腎皮質細胞自律的に起こることが明らかになった。
個体における血中コルチゾール濃度は、HPA axisによって精緻に制御されており、分泌過多が起こると、負のフィードバックが働きACTHの分泌が抑制され、コルチゾールの分泌が減少する。しかし、今回発見した細胞老化(DNA損傷刺激)におけるコルチゾール合成系が老化した個体でも存在するなら、HPA axis非依存的であることから、負のフィードバックが働かず、コルチゾール分泌過多が促進される。糖質コルチコイド分泌過多によって引き起こされる耐糖能異常や免疫能低下、骨形成抑制→骨粗鬆症等は、老化関連病態と共通するところが多い。したがって、これら老化関連疾患の発症に、今回報告した副腎皮質細胞レベルでのコルチゾール合成系の変化が関与している可能性が考えられる。適切な糖質コルチコイド合成制御法を開発できれば、少なくともある種の老化関連疾患の予防及び治療につながると期待され、現在マウスの実験で検証中である。
本学医学部生化学研究室では、このような培養細胞とマウスを対象に老化の研究を行っています。特に内分泌と老化の研究に重点を置いています。老化の研究は間違いなく今後の医学のセントラルドグマを創出します。少しでもご興味がある方は、ご連絡ください。
文責:安達 三美
(madachiATmed.teikyo-u.ac.jp)
医学部 外科学講座
「胃癌の再発予測および予後予測に有用な血漿エクソソームmicroRNA-23bのstage別検討」
Exosome-encapsulated microRNA?23b as a minimally invasive liquid biomarker for the prediction of recurrence and prognosis of gastric cancer patients in each tumor stage.
Kumata Y, Iinuma H, Suzuki Y, Tsukahara D, Midorikawa H, Igarashi Y, Soeda N, Kiyokawa T, Horikawa M, Fukushima R.
Oncol Rep.
2018 Jul;40(1):319-330.
近年、患者の血液、尿、唾液といった体液を用いて、より低侵襲性な診断をおこなうliquid biopsyが話題になっている。中でも、体液中のエクソソームに内包されているmicroRNAは癌の早期診断マーカーとして、注目されている。外科研究室では、消化器癌、肺癌、乳癌といった様々な癌種で、血漿エクソソーム内包microRNAのバイオマーカーとしての有用性を検討している。今回は、胃癌患者の新たな早期癌および転移・再発予測に有用な血漿エクソソーム内包microRNAを胃癌のstage別に検討した研究を紹介する。
まず、胃癌患者の早期転移・再発症例に有用な、血漿エクソソームmicroRNAを、2578のmicroRNAをのせたHuman miRNA Oligo chips ver.20 microRNAアレイを用いて検討し、もっとも特徴的なmiR-23bを抽出した。次に、胃癌症例232例(stage Ⅰ74例, stage Ⅱ47例, stage Ⅲ78例, stageⅣ 32例)を対象に、その臨床的意義を胃癌のstage別に明らかにした。本研究で、胃癌患者の血漿エクソソームmiR-23b値は健常人に比較して有意に低下することが明らかとなった。血漿エクソソームmiR-23b値は、臨床病理学的因子のうち、腫瘍径・深達度・肝転移およびStageと有意な関連性を示した。さらに、全症例を対象にKaplan-Meier生存曲線解析による検討をおこなったところ、エクソソームmiR-23b低発現群の全生存率(OS)と無再発生存率(DFS)は、高発現群に比較し有意に低下していた。さらに、TNM stage別に検討したところ、Kaplan-Meier生存曲線において、stage Ⅰ,Ⅱ,ⅢおよびⅣ症例の血漿エクソソームmiR-23b低発現群のOSおよびDFSは、miR-23b高発現群に比較して有意に低下した。Cox比例ハザードモデルによる多変量解析においても、miR-23bは独立した再発および予後予測因子であることが判明した。これらの結果から、胃癌のstageⅠ,Ⅱ,ⅢおよびⅣ症例において、血漿エクソソーム内包miR-23bは早期再発予測および予後予測マーカーとして有用であることが明らかとなった。
本学医学部外科研究室では、このような臨床研究と礎研究を結ぶTranslational researchを積極的に行っています。御興味のある方は御連絡ください。
文責:飯沼 久恵(医学部外科・医療共通教育研究センター)
(iinumaATmed.teikyo-u.ac.jp)
2018. Jun-1
医学部 産婦人科学講座
「子宮体癌におけるGLP-1Rの発現とオートファジーとの関連」
Expression of the glucagon-like peptide-1 receptor and its role in regulating autophagy in endometrial cancer.
Kanda R, Hiraike H, Wada-Hiraike O, Ichinose T, Nagasaka K, Sasajima Y, Ryo E, Fujii T, Osuga Y, Ayabe T.
BMC Cancer.
2018 Jun 15;18(1):657
子宮体癌は先進諸国では婦人科癌で最も発生率は高く、日本においても発生率は増加の一途をたどっている。近年抗糖尿病薬の一種であるメトホルミンがAMPK経路を活性化させアポトーシスを誘導し抗腫瘍効果を示すとの報告が相次いでいる。また臨床試験においてもメトホルミンが早期の子宮体癌患者の予後を改善することが示され、臨床での子宮体癌患者に対するメトホルミンの使用への関心が高まってきている。これらの報告から我々は、メトホルミンと分子生物学的な作用は異なる新規の抗糖尿病薬であるグルカゴン様ペプチド1受容体(Glucagon-like peptide-1 receptor;以下GLP-1R)受容体促進薬(リラグルチド)に注目し、子宮体癌細胞株におけるGLP-1受容体促進薬の効果と、子宮体癌の臨床検体を用いてGLP-1Rの発現と臨床病理学的因子との関連について検討した。本研究からリラグルチドは、既報と同様に濃度依存性に子宮体癌細胞の増殖を抑制した。さらにリラグルチドは濃度依存性にAMPK経路を活性化しオートファジーを誘導しアポトーシスを促進した。免疫組織化学法による解析では、GLP-1R発現は病理組織学的異型度とホルモン(エストロゲンおよびプロゲステロン)受容体発現と有意な関連性を示し、GLP-1R高発現は有意に無増悪生存期間を延長したことから、子宮体癌におけるGLP-1R高発現は予後良好因子である可能性が示唆された。オートファジーは2016年ノーベル医学生理学賞を受賞した東京工業大学栄誉教授の大隈良典氏が研究してきた事から注目を集めた細胞内の分解機構である。がんの発生や初期進展過程では、がん抑制的に作用するが、一旦浸潤がんになると、がん促進的に作用すると言われている。がんにおけるオートファジーの意義は複雑で、未だ解明されていない部分も多い。今後は動物実験での検討を行うことにより、子宮体癌に対するオートファジー誘導を標的としたリラグルチドの使用が新規治療薬になり得るかを解明したいと考える。
本学医学部産婦人科研究室では、上記のような臨床と関連する基礎研究を多く行っています。少しでも興味がありましたら、ご連絡ください。
文責:神田 蘭香
(doctorranakATyahoo.co.jp)
2018. May-2
薬学部 認知神経科学講座
「男性・女性ホルモンによる海馬スパインのSrcキナーゼ依存的な急性ノンゲノミック制御」
Src Kinase Dependent Rapid Non-genomic Modulation of Hippocampal
Spinogenesis Induced by Androgen and Estrogen.
Soma M, Kim J, Kato A, Kawato S.
Front Neurosci.
2018 May 1;12:282.
和文抄録→2018May2.pdf
世の中の常識では、性ホルモンは精巣や卵巣でだけ合成されているということになっている。ところが、記憶中枢の脳海馬でも男性・女性ホルモンは合成されている。そしてこの性ホルモンは神経シナプスを1時間くらいで増強する。こういう川戸グループの発見した現象の分子機構を更に深く調べたものが、この論文である。海馬の神経シナプス後部(スパイン)を超解像共焦点顕微鏡で3次元撮影した画像を用いて、Srcキナーゼ信号の関与を見出した。「男性・女性ホルモンは神経スパインにあるアンドロゲン受容体(AR)やエストロゲン受容体(ER)に結合し→その下流の蛋白キナーゼ Srcを活性化し→MAPキナーゼを活性化し→スパインを増加させた」のである。神経スパインは記憶を蓄える最小単位であるので、記憶力を高める機構を見出したわけである。これはステロイドホルモン作用では常識である、ステロイド受容体の核移行→遺伝子転写→タンパク合成、という信号系とは異なる、膜受容体を介した急性的なnon-genomicな作用である。更年期の女性に女性ホルモン補充療法を行うと(世界中で1000万人に適用されている)、いわゆる更年期症状以外に記憶力の減退も回復するという効果があって、世界中で実施されているが、この現象の分子論的な理解を与えるものである。更年期の男性に対する男性ホルモン補充療法の分子論的な理解にもつながる。認知症の改善に役に立つと思われる。
文責:川戸 佳
2018. May-1
医学部 皮膚科学講座
「全身性形質細胞増多症はIgG4関連疾患の皮膚症状か?」
Evaluation of IgG4+ Plasma Cell Infiltration in Patients with Systemic Plasmacytosis and Other Plasma Cell-infiltrating Skin Diseases.
Takeoka S, Kamata M, Hau CS, Tateishi M, Fukaya S, Hayashi K, Fukuyasu A, Tanaka T, Ishikawa T, Ohnishi T, Sasajima Y, Watanabe S, Tada Y.
Acta Derm Venereol.
2018 Apr 27;98(5):506-511.
全身性形質細胞増多症は、真皮に形質細胞が多数浸潤する稀な皮膚疾患である。IgG4関連疾患とは、病理学的にリンパ球や形質細胞の浸潤がみられ、その形質細胞はIgG4陽性細胞が豊富であり、花筵様の線維化、閉塞性静脈炎がみられ、血清学的にもIgG4の上昇がみられる疾患群である。これまで全身性形質細胞増多症において、IgG4陽性形質細胞の割合が高い症例報告がいくつかあり、全身性形質細胞増多症がIgG4関連疾患の皮膚症状ではないか議論されてきた。そこで我々は、IgG4関連疾患の病理学的診断基準の一つである浸潤している形質細胞のIgG4/IgG比が40%以上という項目を満たすかどうか、当院で経験した全身性形質細胞増多症の4例と、形質細胞が多く浸潤している全身性形質細胞増多症以外の皮膚疾患12例(炎症性粉瘤、軟線維腫、肉芽腫性口唇炎、全身性エリテマトーデス、有棘細胞癌、扁平苔癬、瘢痕、肉芽腫、慢性細菌感染症、表在性皮膚細菌感染症、開口部形質細胞腫、陽性対照としてIgG4関連疾患の皮膚組織)を対象に病理組織で形質細胞IgG4/IgG比を調べた。全身性形質細胞増多症では4例中1例のみがIgG4/IgG比40%以上であった。一方で、全身性形質細胞増多症以外の皮膚疾患(陽性対照のIgG4関連疾患を除く)11例では5例もIgG4/IgG比が40%以上であった。また、全身性形質細胞増多症でIgG4/IgG比40%以上であった1例も線維化はみられず、病理学的基準の全ては満たさなかった。以上より、全身性形質細胞増多症はIgG4関連疾患の皮膚症状ではなく別の疾患と考えられる。過去の報告からも、慢性炎症などの特定の免疫状態ではIgG4陽性形質細胞の浸潤を誘導するため、IgG4関連疾患は安易に診断されるべきものではない。IgG4陽性形質細胞の豊富な浸潤は必ずしもIgG4関連疾患を示唆するものではなく、総合的に診断されるべきである。
本学医学部皮膚科では、上記のような臨床研究の他、臨床と関連する基礎研究など幅広く研究を行っております。上記以外でも少しでもご興味がありましたら、ご気軽にご連絡下さい。
文責:鎌田 昌洋
(kamatam-derATmed.teikyo-u.ac.jp)
薬学部 医薬化学講座 薬化学研究室
「ビタミンD3生合成における副生成物タキステロール骨格の構造安定化およびビタミンD受容体結合時複合体のX線共結晶構造解析」
Effects of 2-substitution on 14-epi-19-nortachysterol-mediated biological events: based on synthesis and X-ray co-crystallographic analysis with the human vitamin D receptor.
Sawada D, Kakuda S, Takeuchi A, Kawagoe F, Takimoto-Kamimura M, Kittaka A.
Org Biomol Chem.
2018 Apr 4;16(14):2448-2455.
体内でアセチルCoAから生合成される7-デヒドロコレステロールは、皮膚で紫外線(UVB: 280~315 nm)を浴びて電子環状反応によりステロイドB環が開裂しプレビタミンD3が生成し、次いで体温による熱異性化反応([1,7]シグマトロピー転位)でビタミンD3へと変換される。この二段階の体内反応に酵素は全く関与せず、フラスコ内と同じ純粋な光反応が皮膚で進行する。このとき、本来熱異性化を受けるべき生合成中間体プレビタミンD3にも紫外線が当たってしまうことから、ルミステロールおよびタキステロールが副生成物として生成する。タキステロールは8,9-位間に二重結合を有し、CD環(trans-ヒドリンダン骨格)の歪から構造的には不安定であり、実際その誘導体を化学合成するとスペクトル測定中にも徐々に分解が進行することが判明した。我々は、CD環をcis-ヒドリンダン骨格に異性化することにより、8,9-位間の二重結合を温存し、さらにタキステロールの19位メチル基を除去した14-エピ-1α,25-ジヒドロキシ-19-ノルタキステロールの合成に成功し、ビタミンD受容体(VDR)に活性型ビタミンD3とは異なる様式で結合することをX線共結晶構造解析により証明した。今回の論文では特に、14-エピ-1α,25-ジヒドロキシ-19-ノルタキステロールのA環2位に3-ヒドロキシプロピル基を導入し、その効率的な合成法と立体化学2β体が2α体よりもVDR結合親和性が高く、その順番は2β体(活性型ビタミンD3の48%)>無置換体(同15%)>2α体(同5.6%)であることを示し、また、VDRとの結合複合体のX線共結晶構造解析により、2位置換基末端OH基とArg274の水素結合の存在や、活性型ビタミンD3とはA環とCD環をつなぐリンカー部分の結合様式が異なることを証明した。
文責:橘高 敦史
ちば総合医療センター 整形外科学講座
「骨盤骨切り術後の人工股関節全置換術:システマティックレビュー、メタアナリシス」
Total hip arthroplasty after a previous pelvic osteotomy: A systematic review and meta-analysis.
Shigemura T, Yamamoto Y, Murata Y, Sato T, Tsuchiya R, Wada Y.
Orthop Traumatol Surg Res.
2018 Mar 23. [Epub ahead of print]
変形性股関節症などの股関節疾患に対する手術は、関節温存手術と人工股関節全置換術(total hip arthroplasty;THA)に大別されます。骨盤骨切り術(pelvic osteotomy;PO)は関節温存手術の一つです。THAでは、傷んだ股関節を人工物に交換しますが、POは骨盤を切って向きをかえ、関節にかかる力のベクトルを変えることで、痛みを取り除きます。POでは自分の関節を残すことができますが、変形が進み、残念ながら後にTHAが必要になってしまう方もいます。一般的に再手術は、初回手術より難易度が上がりますが、PO後のTHAではどうでしょうか? POの既往がないTHAと比較し、難易度や臨床成績を調査したのが本研究です。システマティックレビューにより、11編の英語論文からデータを抽出し、解析(メタアナリシス)を行いました。その結果、臨床成績、手術時間、出血量は有意な差がありませんでした。しかし、インプラントの設置精度には有意差がありました。骨盤骨切り術は、将来必要となるTHAの成績に影響を与えないので、治療オプションとして考慮すべきものですが、インプラントの設置に影響する可能性があり、十分な計画、ナビゲーションなどの支援を検討すべきと考えられました。
システマティックレビューは、系統立てて、論文を抽出し、吟味することです。ルールに基づいて、論文を選択し、データを抽出します。メタアナリシスは、システマティックレビューで得られたデータを解析することです。単純に数字を足すだけではなく、含まれる研究の規模に対して重みづけをする必要があります。システマティックレビュー、メタアナリシスを行うことで、見解の分かれたテーマに対する異なる結果を統合することができます。
システマティックレビューとメタアナリシスを用いた論文は、学会などで注目され、投稿された雑誌でも高いエビデンスレベルを与えられることが多いです。
興味をもたれた学生さんがいらっしゃいましたら、ご連絡ください。
文責:重村 知徳
(tshigeponATyahoo.co.jp)
2018. Apr-1
医学部 内科 消化器内科グループ
「原発性胆汁性胆管炎患者の皮膚掻痒感に対するナルフラフィン塩酸塩は患者QOLの改善につながるか? -市販後単群前向き試験-」
Is patient-reported outcome improved by nalfurafine hydrochloride in patients with primary biliary cholangitis and refractory pruritus? A post-marketing, single-arm, prospective study.
Yagi M, Tanaka A, Namisaki T, Takahashi A, Abe M, Honda A, Matsuzaki Y, Ohira H, Yoshiji H, Takikawa H; Japan PBC Study Group (JPBCSG).
J Gastroenterol.
2018 Apr 16. [Epub ahead of print]
原発性胆汁性胆管炎(primary biliary cholangitis; PBC)は、肝内小型胆管が自己免疫的機序によって障害され、胆汁がうっ滞することによって肝臓が障害される疾患である。以前は「原発性胆汁性肝硬変」という病名であったが、診断技術や治療の進歩により肝硬変まで進行することは稀になったため、2016年に現在の病名に変更された。生命予後は大きく改善されたものの、PBC患者はおそらく肝内胆汁うっ滞のため、時として激烈な皮膚のかゆみに悩まされる。通常抗ヒスタミン薬が処方されるがその効果は限定的である。
2016年、PBCも含めた慢性肝疾患のかゆみ全般に対してナルフラフィン塩酸塩という薬剤が承認された。ナルフラフィン塩酸塩は中枢神経系に分布しているκレセプターに対する内因性アゴニストで、かゆみを伝えるシグナルを抑制し皮膚掻痒感を抑えることが明らかになっている。今回われわれはAMEDから資金を得て、中等度から重度の皮膚掻痒感を有する44例のPBC患者(男性5例・女性39例、平均年齢66.8歳)を対象として、ナルフラフィン塩酸塩の有効性を検証する多施設共同オープンラベル単群前向き試験を行った。その結果、ナルフラフィン塩酸塩の3か月投与により、患者の性別や年齢、疾患の進行度などにかかわらず皮膚掻痒感は有意に改善しており、患者の状態を問わずPBCにみられる皮膚掻痒感に対してもナルフラフィン塩酸塩が有用であることが明らかになった。皮膚掻痒感は血液検査などによって客観的に評価できるものではなく把握が困難だが、患者に対し積極的にかゆみの有無を確認し治療介入することにより、患者のQOLの改善を目指すことが重要である。
文責:田中 篤
(a-tanakaATmed.teikyo-u.ac.jp)
2018. Mar-2
溝口病院 麻酔科学講座
「ロボット支援前立腺全摘術における死腔換気の評価:3種の換気モードにおけるランダマイズドクロスオーバー研究」
Effect of pressure-controlled inverse ratio ventilation on dead space during robot-assisted laparoscopic radical
prostatectomy: A randomised crossover study of three different ventilator modes.
Hirabayashi G, Ogihara Y, Tsukakoshi S, Daimatsu K, Inoue M, Kurahashi K, Maruyama K, Andoh T.
Eur J Anaesthesiol.
2018 Apr;35(4):307-314.
逆比従圧式換気は換気効率が高く、ロボット支援前立腺全摘術に有効な換気方法であると考えた。ロボット支援前立腺全摘術(n=20)を対象に、VCV (従量式換気・I/E比0.5)、PCV (従圧式換気I/E0.5)、PC-IRV (逆比従圧式換気:呼気フローを指標に呼気変局点と予想基線復帰点のおよそ中間で吸気開始するようにI/E比を症例ごとに設定)、を順不同でそれぞれ30分間ごとに行った。本研究ではボリュームカプノグラフィを用いて生理学的死腔(呼吸および循環の総合的なガス交換効率の指標)を評価した。さらに、生理学的死腔を気道死腔(V/Q=∞)、肺胞死腔(V/Q>1)、シャント死腔(V/Q<1)の3つに分割して評価した。気道死腔は気道容積を機能的に評価したもので、気流速度、拡散などの影響を受ける。肺胞死腔は相対的肺過膨張を表す。シャント死腔は肺外シャント、肺内シャント、肺動脈ー肺胞間ガス拡散障害の指標となる。
生理学的死腔率は、VCV 43±8.5 %、PCV 35.9±3.9 %と比較してPC-IRV 29.2±4.7%で有意に改善した。気道死腔率は、PC-IRV およびPCVがVCVよりも改善した。PCVの初期流速増加の攪拌効果により改善したと思われる。シャント死腔率は、PC-IRVはPCVより、さらにVCVよりも改善した。Auto PEEP効果、肺リクルートメント作用、吸気時間依存V/Q<1改善効果などが考えられる。肺胞死腔率に有意差を認めなかった。PC-IRVは肺過膨張と循環抑制による肺胞死腔悪化の可能性はあるものの、適切な呼気時間と適切な循環管理で悪化は防げると思われた。
ロボット支援前立腺手術など低呼吸コンプライアンス症例では、呼気フロー波形を指標として吸気を開始する逆比従圧式換気は生理学的死腔率を改善し、極めて有効な手段となりうる。しかし、肺過膨張と循環抑制のリスクがあるため、適切な呼気時間と適切な循環管理に留意すべきである。
溝口病院麻酔科では呼吸メカニズムの解明、麻酔器・呼吸器の開発を行っております。ご興味をお持ちいただけましたらご連絡下さい。
文責: 平林 剛
(hirabayashi1967ATgmail.com)
2018. Mar-1
薬学部 医療薬学講座 物理薬剤学研究室
「Abcd1 欠損マウス脳内のリン脂質の網羅的解析及びイメージング解析」
Profiling and Imaging of Phospholipids in Brains of Abcd1-Deficient Mice.
Hama K, Fujiwara Y, Morita M, Yamazaki F, Nakashima Y, Takei S, Takashima S, Setou M, Shimozawa N, Imanaka T, Yokoyama K.
Lipids.
2018 Jan;53(1):85-102.
副腎白質ジストロフィー (X-ALD) は、脱髄を含む神経症状と副腎の障害を特徴とするX連鎖劣性の遺伝子疾患です。X-ALDの原因遺伝子はABCトランスポーターの1つのABCD1であり、ABCD1は極長鎖脂肪酸をペルオキシソーム内へ輸送機能を担っています。X-ALD患者ではこの輸送過程に異常が生じる結果、ペルオキシソーム内における極長鎖脂肪酸代謝のβ酸化が低下し、極長鎖脂肪酸が細胞内および細胞外に蓄積します。しかし、極長鎖脂肪酸蓄積と、脱髄をはじめとする多様なX-ALDの病態の関連は不明です。また、極長鎖脂肪酸が生体内で、実際にどのような存在様式をとるかという点については不明な点が多く残されています。これまで、X-ALD患者由来の線維芽細胞、あるいは血漿を用いた脂質解析により、極長鎖脂肪酸を含有するリン脂質が解析されておりますが、ABCD1の機能破綻により、中枢神経内でどのようなリン脂質代謝変化が生じるかは不明でした。我々は、高速液体クロマトグラフィーおよび質量分析計により、各種リン脂質を網羅的に計測する方法を開発し、ABCD1欠損マウスの脳のリン脂質組成を詳細に解析しました。その結果、極長鎖脂肪酸がグリセロリン脂質のsn-1位に含まれていること等を見出し、極長鎖脂肪酸特異的な代謝機構が生体に存在することを示しました。さらに、最新のイメージング質量分析器を用いて脳内の極長鎖脂肪酸含有リン脂質の空間分布を詳細に把握することに成功しました。これらのマウスのを用いた基礎的知見を起点として、臨床検体の詳細な解析を今後展開することで、X-ALDの病態解明および新規診断マーカーの開発の手掛かりになることが期待されます。
当研究室では、様々な脂質の代謝および分析方法の開発を行っておりますので、ご興味をお持ちいただけましたらご連絡下さい。
文責:濱弘太郎
(khamaATpharm.teikyo-u.ac.jp)
2018. Feb-3
溝口病院 産婦人科学講座
「卵巣チョコレート嚢胞に生じた骨盤腹膜炎における緊急手術介入のリスク因子に関する後方視的観察研究」
Predictive factors for emergent surgical intervention in patients with ovarian endometrioma hospitalized for pelvic inflammatory disease: A retrospective observational study.
Matsuyama R, Tsuchiya A, Nishii O.
J Obstet Gynaecol Res.
2018 Feb;44(2):286-291.
卵巣チョコレート嚢胞は、破裂や感染により骨盤腹膜炎を引きおこす。抗菌薬による保存的治療が奏功する症例と、奏功せず緊急外科的介入を要する症例があるが、治療開始時点でその予測は困難である。卵巣チョコレート嚢胞の骨盤腹膜炎は生殖年齢に生じやすく、治療法の選択には卵巣機能への配慮が必要で、重症の卵管卵巣膿瘍では速やかなドレナージも考慮されることから、重症化のリスク因子の把握は重要である。本研究では、卵巣チョコレート嚢胞において抗菌薬が無効で緊急外科的介入を必要とする症例のリスク因子を明らかにすることを目的とした。倫理委員会承認のもと、2008年1月から2013年12月に当科で骨盤腹膜炎の入院治療をした卵巣チョコレート嚢胞症例22例を、抗菌薬無効で緊急手術を要した群(n = 6)と、抗菌薬が奏功して退院した群(n = 16)に分け、後方視的に検討した。その結果、緊急手術群では、骨盤腹膜炎発症前の‘子宮内または骨盤内の操作(子宮内膜細胞診、体外受精、胚移植、子宮卵管造影検査、子宮鏡検査)’が有意に多かった(83% vs 38%、オッズ比8.33、95%信頼区間1.02-181.3、p = 0.048)。また、緊急手術群では、骨盤腹膜炎の発症から点滴抗菌薬治療開始までの期間が有意に長かった(6.5日 vs 1日、オッズ比1.28、95%信頼区間1.01-1.75、p = 0.041)。本研究の結果から、骨盤腹膜炎発症前の‘子宮内または骨盤内の操作’および、骨盤腹膜炎の発症から点滴抗菌薬治療開始までの期間が、重症化予測に有用な因子であることが明らかとなった。
医学部附属溝口病院産婦人科では、子宮筋腫や卵巣嚢胞に対する腹腔鏡下手術を中心に、悪性腫瘍の治療も含め、年間約500件の手術を行っております。ご興味のある方は是非お気軽にお声掛けください。
文責: 松山玲子
(reikomATmed.teikyo-u.ac.jp)
2018. Feb-2
医学部 微生物学講座
「病原性細菌 Acinetobacter baumannii は好中球の接着を抑制することで好中球細胞外トラップ形成を阻害する」
Pathogenic Bacterium Acinetobacter baumannii Inhibits the Formation of Neutrophil Extracellular Traps by Suppressing Neutrophil Adhesion.
Kamoshida G, Kikuchi-Ueda T, Nishida S, Tansho-Nagakawa S, Ubagai T, Ono Y.
Front Immunol.
2018 Feb 7;9:178.
Acinetobacter baumannii は, 院内施設や医療機器などに定着し易く, 院内感染の原因となり易い病原性細菌である. 本菌は薬剤耐性獲得能が非常に高く, 近年世界中の医療機関で, 多剤に耐性を獲得した multi-drug resistant Acinetobacter (MDRA) が急速に拡がり, 問題となっている. 本学医学部附属病院でも2010年に MDRA のアウトブレイクを経験しており, 当講座が日本での研究をリードしなければならない. A. baumannii は, 通常は無害であるが, 易感染宿主において感染症状を引き起こすため, 宿主免疫細胞との相互作用が重要であると考えられる. 好中球は細菌感染に対する初期感染防御において重要な役割を果たすが, これまで A. baumannii との相互作用は未解明の点が多い. 近年, 好中球が核の放出を伴う細胞死を引き起こし, 好中球細胞外トラップ (neutrophil extracellular traps: NETs) とよばれる網目状のトラップを形成し, 効率よく細菌を捕捉し, 殺菌するという生体防御機構が明らかとなった. これまで多くの病原性細菌で NETs 形成を誘導することが示されてきたが, その阻害作用はほとんど報告されていない. 本研究では, A. baumannii による NETs 形成の阻害を評価した. その結果, 好中球を PMA で刺激したにもかかわらず, A. baumannii との共培養で, NETs 形成がほとんど観察されなかった. さらに, A. baumannii は, NETs 形成を阻害することによって好中球の寿命を延長することも示された. この NETs 阻害メカニズムを解析したところ, A. baumannii は好中球の細胞接着分子 CD11a 発現を抑制することにより, 好中球の接着を抑制し, それにより NETs 形成を阻害することが明らかになった. 本研究は, 病原性細菌が好中球の感染防御機構である NETs 形成を阻害し, 好中球の寿命を延長することを示した最初の報告である. NETs 形成を阻害し, 宿主の免疫応答を回避するこの新規病原性は, A.baumannii 感染のための新しい治療戦略の開発に寄与することが期待できる.
また, これまでに我々は, A.baumannii が好中球をタクシーのように利用することで生体内を移動し, 敗血症や感染拡大を引き起こす新規細菌移動メカニズム Bacterial immunity taxi も世界にさきがけて明らかにした (Kamoshida et al. J Leukoc Biol. 2016, 100: 1405-1412). このように当講座は, 微生物と宿主免疫細胞の相互作用を研究しております. ご興味ある方は是非一度当講座にお越し下さい.
文責: 鴨志田 剛
2018. Feb-1
医学部 生化学講座
「HDLのコレステロール引き抜き能とプラスマローゲンレベルとの関係:慢性腎臓病患者を対象とした横断研究」
Association of cholesterol efflux capacity with plasmalogen levels of high-density lipoprotein: A cross-sectional study in chronic kidney disease patients.
Maeba R, Kojima KI, Nagura M, Komori A, Nishimukai M, Okazaki T, Uchida S.
Atherosclerosis.
2018 Mar;270:102-109.
慢性腎臓病(CKD)は動脈硬化のハイリスク病態である。一説では、CKD患者が5年後に末期腎不全に至る割合(1%)と比べ、その間に心筋梗塞や脳卒中を発症する割合(24%)の方が圧倒的に高いとされる。CKDにおける血清脂質プロフィルの特徴は、通常のリスク病態で観られる高コレステロール血症、特にLDL-Cは必ずしも高値を示さず、むしろHDL-Cが低い点である。低HDL-C血症は冠動脈疾患の危険因子であることは多くの疫学研究から支持されているが、最近の研究では低HDL-C血症に伴うHDL機能の低下がリスク因子としてより重要であることが示唆されている。すなわち、HDL粒子がもつ主要な抗動脈硬化作用の1つであるマクロファージ細胞からコレステロールを引き抜く能力(質)が、HDL粒子の(数)よりも抗動脈硬化という点からは重要と考えられている。HDLはある一定の密度分布に属するヘテロなリポタンパク質群であり、その機能、特にコレステロールの引き抜き能に関わる因子・成分を明らかにすることは重要である。
本論は、この関与成分としてコレステロール代謝や、酸化ストレス、炎症などと密接な関連をもつプラスマローゲンとよばれるリン脂質に着目し、腎機能の軽~高度低下者(CKD-3-4)24名と透析導入前の末期腎不全(CKD-5)患者33名を対象に、プラスマローゲンを含む血液生化学データや、HDLのコレステロール引き抜き能、動脈硬化指標などの臨床データを比較解析した横断研究である。CKD-3-4と比較して、CKD-5では有意な血清プラスマローゲンの減少およびHDLのコレステロール引き抜き能の低下が観られた。また、多変量解析から、HDL中のプラスマローゲン量はコレステロールの引き抜き能やプラークスコア(動脈硬化指標)の独立した説明因子でることが示された。プラスマローゲンがHDLのコレステロール引き抜き能に直接関与することを検証するため、CKD-5患者由来のHDLに様々なリン脂質を付加し、それらのコレステロール引き抜き能を測定・比較したところ、特にドコサヘキサエン酸(DHA)を含有するプラスマローゲンに有意な引き抜き能の増加効果(リン脂質未付加のHDLの約2倍)を認めた。以上の結果から、プラスマローゲンはHDLの抗動脈硬化作用として重要なコレステロールの引き抜き能に関わり、その減少は腎不全患者の動脈硬化を促進する要因の1つと考えられた。
尚、本研究は本学医学部腎臓内科との共同研究の成果となります。
文責:前場良太
2017. Jan-2
医学部 衛生学公衆衛生学講座
「アルコール摂取量とインスリン分泌障害発症およびインスリン抵抗性発症との関連:佐久研究」
Association between alcohol consumption and incidence of impaired insulin secretion and insulin resistance in Japanese: The Saku study.
Tatsumi Y, Morimoto A, Asayama K, Sonoda N, Miyamatsu N, Ohno Y, Miyamoto Y, Izawa S, Ohkubo T.
Diabetes Res Clin Pract.
2018 Jan;135:11-17.
過剰飲酒が2型糖尿病発症リスクを上昇させることが前向き研究のメタアナリシスから報告されているが、発症機序であるインスリン分泌障害とインスリン抵抗性との関連については横断研究がほとんどである。中には飲酒量が多いほどインスリン抵抗性が低いという、2型糖尿病との関連と一致しない結果も報告されている。そこで、本研究は飲酒量とインスリン分泌障害、インスリン抵抗性との関連を前向きコホート研究より明らかにすることを目的とした。対象者は2008年度に長野県佐久総合病院の1泊人間ドック(75-g経口ブドウ糖負荷試験を含む)を受診し、糖尿病、インスリン分泌障害、インスリン抵抗性に該当しなかった30-74歳の男女2100名。インスリン分泌障害はインスリン分泌指数0.4以下、インスリン抵抗性はHOMA-IR2.5未満と定義した。2008年度の問診による飲酒習慣から週当たりの純アルコール摂取量を算出し、非飲酒者、少量飲酒者(男性:1-139g、女性:1-69g)、適量飲酒者(男性:140-274g、女性:70-139g)、過剰飲酒者(男性:275g以上、女性140g以上)の4群に分類し、2014年3月まで毎年の人間ドック受診より追跡した。インスリン分泌障害およびインスリン抵抗性発症リスクは、非飲酒者を基準とし、他3群についてCox回帰分析よりハザード比(95%信頼区間)を推定した。共変量は性、年齢、body mass index、喫煙習慣、運動習慣、糖尿病家族歴、対数変換インスリン分泌指数(インスリン分泌障害発症リスク算出時のみ)、HOMA-IR(インスリン抵抗性発症リスク算出時のみ)とした。本人間ドックはリピーターが多く、追跡5年間に4-5回受診した者は73.8%であった。追跡中に708名がインスリン分泌障害を、191名がインスリン抵抗性を発症した。飲酒者のインスリン分泌障害発症リスクは、少量飲酒者で1.16 (0.96–1.40)、適量飲酒者で1.35 (1.07–1.70)、過剰飲酒者で1.64 (1.24–2.16)であった(P for trend<0.001)。インスリン抵抗性発症は、少量飲酒者で1.22 (0.84–1.76)、適量飲酒者で1.42 (0.91–2.22)、過剰飲酒者で1.59 (0.96–2.65)であった(P for trend=0.044)。以上より、飲酒量が多いほどインスリン分泌障害とインスリン抵抗性の発症リスクは上昇し、先行研究により明らかにされている飲酒量と2型糖尿病発症との関連に一致した結果が得られた。
当講座では、75-g経口ブドウ糖負荷試験や家庭血圧測定といった疫学研究では貴重な項目を含んだ大規模縦断研究から、糖尿病や高血圧のリスク因子、また予後に関する知見を発信しています。ご興味のある方は是非一度当講座にお越しください。
文責:辰巳友佳子, 大久保孝義
2017. Jan-1
医学部 薬理学講座
「GTRAP3-18はPOMCと相互作用することによって食物摂取および体重を調節する」
GTRAP3-18 regulates food intake and body weight by interacting with pro-opiomelanocortin.
Aoyama K, Bhadhprasit W, Watabe M, Wang F, Matsumura N, Nakaki T.
FASEB Journal.
2018 Jan;32(1):330-341.
食欲抑制ホルモンであるαメラニン細胞刺激ホルモン(α-MSH)は、視床下部の神経細胞においてプロオピオメラノコルチン(POMC)のプロセッシングにより産生され、放出されます。視床下部で放出されたα-MSHは、メラノコルチン4受容体を刺激することによってAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を阻害し食欲を減退させます。我々の研究では、小胞体に存在するアンカー蛋白質であるグルタミン酸トランスポーター関連蛋白質3-18(GTRAP3-18)が、視床下部においてPOMCと相互作用することによって食物摂取量および血糖値をコントロールすることを明らかにしました。 GTRAP3-18欠損マウスでは、野生型マウスと比較し、摂食量が少なく、低体重で低脂肪体を示し、血糖値や血清インスリン値および血清レプチン値が低いにも関わらず、血清および脳のα-MSHレベルが上昇し、AMPKは抑制されていました。また、ブドウ糖負荷試験では、野生型マウスと比較して、GTRAP3-18欠損マウスの経時的血糖値および曲線下面積が有意に低下していました。さらに、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)による培養細胞を用いた実験にて、GTRAP3-18とPOMC間の相互作用を確認しました。これらの知見から、GTRAP3-18 / POMCの相互作用を抑制する化合物の開発は、将来的に肥満および糖尿病治療に繋がると期待されます。この論文は、海外の複数のメディア(ScienceDaily, News Medical, Medical Express, MarketWatch)でも取り上げられました。
また、当研究室では、GTRAP3-18が相互作用する神経型グルタミン酸トランスポーター(EAAC1)のグルタチオン産生促進を介した神経保護作用に関わる研究(Nature Communications 2014 May 7;5:3823)も積極的に行っておりますので、もしご興味をお持ち頂けましたらお気軽にご連絡下さい。
文責:青山晃治(kaoyamaATmed.teikyo-u.ac.jp)
2017. Dec-2
医学部 整形外科学講座
「アキレス腱断裂術後における下腿三頭筋力の回復とスポーツ活動量の関係性」
Correlation Between Recovery of Triceps Surae Muscle Strength and Level of Activity After Open Repair of Acute Achilles Tendon Rupture.
Toyooka S, Takeda H, Nakajima K, Masujima A, Miyamoto W, Pagliazzi G, Nakagawa T, Kawano H.
Foot Ankle Int.
2017 Dec;38(12):1324-1330
中年男性に多いアキレス腱断裂ですが、再断裂が少ないという理由で手術による治療が多く選択されます。近年、術後早期のスポーツ復帰を目指して、断裂部を強固に縫合する工夫がされてきており、以前よりも早く日常生活やスポーツに復帰できるようになりました。しかし、どの程度の筋力があればジョギングを許可するか、スポーツ復帰をしていいかの目安が曖昧で、その評価方法も医師それぞれで異なります。今回、術後のheel raise(下腿三頭筋を用いた踵上げの動作)に注目し、heel raiseがどれくらいできるようになったらジョギングやスポーツ復帰ができるのかを検討しました。対象はアキレス腱術後の100例で、術側足1本で1回のheel raiseが可能になった時期、術側足1本で連続20回可能になった時期とジョギングやスポーツ復帰の時期をRetrospectiveに検討しました。すると、術側足1本で1回のheel raiseが可能になった直後にジョギングが可能になり、術側1本で連続20回のheel raiseが可能となった直後にスポーツ完全復帰ができていたことがわかりました。つまり、1回のheel raiseはジョギング開始を許可する目安になり、連続20回のheel raiseはスポーツ完全復帰の目安にすることができると考えました。heel raiseという評価方法は、単純で特別な器械を必要とせず、安価で誰にでも用いることのできる指標です。このheel raiseによる評価を多くの医師や理学療法士に知ってもらい、アキレス腱術後の患者さんが適切な時期にジョギングやスポーツ復帰を目指すことができるようになれば幸いです。
文責:豊岡 青海
2017. Dec-1
医学部 内科 消化管グループ
「高度胃粘膜萎縮は機能性ディスペプシア患者におけるアコチアミドの有効性に関する予測因子である」
Extensive gastric mucosal atrophy is a possible predictor of clinical effectiveness of acotiamide in patients with functional dyspepsia.
Miki A, Yamamoto T, Maruyama K, Nakamura N, Aoyagi H, Isono A, Abe K, Kita H.
Int J Clin Pharmacol Ther.
2017 Dec;55(12):901-904.
近年わが国では機能性消化管疾患が増加しているが、中でも上部消化管症状を呈する機能性ディスペプシア(FD)は高頻度であり、日本人の4人に1人は3か月に一回以上FD症状を呈すると言われている。診断は器質的疾患を除外した上で、症状から確定する。特異的な検査はなくとらえにくい疾患群である。治療薬として、わが国で開発されたアコチアミドは本疾患のみを適応疾患とするアセチルコリンエステラーゼ阻害薬で、FD症状に対し有意に改善する。ただし全ての患者に有効なわけではなく、効果の投与前予測は難しい。今回我々は効果と関連する臨床因子について自験例を対象に検討を行った。対象は149例のアコチアミドを投与されたFD症例である。医療記録から薬剤の有効性を3段階(著効、有効、無効)で評価、また内視鏡所見を含めた背景因子を調査し、有効性との関連性を調べた。著効+有効例は80%程度と高い有効性が認められた。有効性に関連する因子として、単変量解析では、病型(食後愁訴症候群)、精神疾患の有無、胃粘膜委縮の有無が有意であり、多変量解析では、精神疾患がないこと、及び胃粘膜萎縮がないことが薬剤の有効性と有意な関連因子であった。胃粘膜萎縮が有効性と関連することの推察として、アコチアミドの有効性にグレリンなど胃から分泌されるホルモンが関与していることが明らかになっていることから、胃粘膜萎縮によりグレリンの生成量が低下し、アコチアミドが効果を発揮しにくいのではないか、という可能性が挙げられる。ただしこの仮説については今後の研究によって明らかにされるべきである。いずれにしても、本研究によって胃粘膜萎縮を有する患者においてはアコチアミドの有効性が低いことが示唆され、同薬剤の効果予測に役立つ情報と考えている。
当消化管研究室では、従来より内視鏡治療を積極的に行っているほか、近年注目度が増している機能性消化管疾患に対しても臨床及び研究面から取り組んでいます。内視鏡など臨床技能を習得しながら、同時に臨床に役立つ研究ができる教室ですので、興味のある方はお気軽にお声掛け下さい。
文責:山本貴嗣
ちば総合医療センター 病院病理部
「2段階遠心固定法を用いた直接塗抹法は尿細胞診における高異型度尿路上皮癌の検出に有用である」
A Modified Direct-Smear Processing Technique Employing Two-Step Centrifugation/Fixation Is Useful for Detecting High-Grade Urothelial Carcinoma.
Toyonaga Y, Yamazaki K, Koyama Y, Yamada M, Ishida Y.
Acta Cytologica.
2017 June;61(6):447-454.
尿細胞診は尿路上皮癌(UC)のスクリーニングに重要な手法ですが,尿検体中に含まれる上皮の相当量が標本作成中に脱落することや,変性に伴う核の濃縮が見られ核形態の把握がしばしば困難であるなどの理由から,正確な細胞判定は決して容易ではありません.UCは組織グレードによって低異型度(LGUC)と高異型度(HGUC)に分類され,両者には病期進展に大きな差異を認めることから,2016年に公表された"The Paris System for Reporting Urinary Cytology"(TPS)では尿細胞診の最終目的をHGUCの検出と設定しています.
本論文の要旨は,当部署で開発した2段階遠心固定法(two-step centrifugation/fixation processing; TSCFP)を用いた直接塗抹法が,細胞収量と核形態の描出に優れ,HGUCを高感度に検出し得ることを明らかにしたものです.具体的にはヒト由来HGUC細胞株T24を用いて,従来法,液状細胞診法(SurePath法,Thin-Prep法),および,TSCFP法で作成した尿細胞診標本を比較し,TSCFP法が細胞収量と核形態の描出に最も優れた手法であることを証明しました.さらに,過去5年間にTSCFP法で作成した287症例の自然尿標本をTPS様式に準じて細胞判定を行い,細胞適性率(97.7%)が極めて高く,加えて,HGUCの検出における感度(87.6%, CI: 85.2–88.5%)と特異度(98.3%, CI: 94.7–99.5%)も極めて高いことを報告しました.本手法はTPSの目的に極めて合致したもので,今後の尿細胞診の精度向上に大きく寄与するものと考えます.今後も本研究のような、「明日の臨床に役立つ研究」を常に意識し、部署一丸となって研究に励んで行きたいと考えております
文責:豊永安洋,山﨑一人
2017. Nov-1
医学部 内科 感染症グループ
「ドルテグラビルで治療中のHIV患者における腎機能マーカーとしてのシスタチンCの有用性」
Short Communication: The Clinical Value of Cystatin C as a Marker of Renal Function in HIV Patients Receiving Dolutegravir.
Yoshino Y, Koga I, Seo K, Kitazawa T, Ota Y.
AIDS Res Hum Retroviruses.
2017 Nov;33(11):1080-1082.
作用機序の異なる多剤併用の治療により、HIV感染症患者の生命予後は、健常者とほぼ変わらないレベルまで改善しました。近年インテグラーゼ阻害薬がHIV感染症の治療の中心に位置づけられ、その中でドルテグラビルは現在最も使用されている薬剤です。この薬剤は、尿細管のOCT2と呼ばれるトランスポーターの機能を阻害し、クレアチニン(Cre)の分泌を抑え、血中クレアチニンの若干の上昇をもたらします。血清Cre値をもとに糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate: eGFR)を推定し、腎機能を評価することが一般的ですが、ドルテグラビル使用中の患者では、糸球体濾過量は実際には低下していないものの、血清Cre値の上昇により、腎機能低下が起こっているように誤って判断される可能性があります。そこで、ドルテグラビル投与開始前後で、早期の腎機能評価に有用な血清シスタチンC値を測定し、これを用いて算出したeGFRと、従来の血清Creを基に算出したeGFRと比較検討しました。その結果、ドルテグラビル開始後、血清Creを基に算出したeGFRは多くの症例で低下しましたが、血清シスタチンC値を用いて算出したeGFRはほぼ全例で不変でした。従って、ほとんどの症例で実際には腎機能低下をきたさず、ドルテグラビルで治療中の患者では血清シスタチンC値を用いて算出したeGFRの方が腎機能評価に適していることを証明しました。
当グループは皆リサーチマインドにあふれたメンバーばかりです。今後も本研究のような、「明日の臨床に役立つ研究」を常に意識し、チーム一丸となって研究に励んで行きたいと思っています。
文責:吉野 友祐
2017. Oct-3
薬学部薬物送達学/昭和薬科大学薬剤学 共同研究
「がん血管内皮細胞を抗原として捉えた新しい免疫療法は、特定のがん種に依ることなく、がん血管を特異的に傷害することができる」
Cancer Vaccine Therapy Using Tumor Endothelial Cells as Antigens
Suppresses Solid Tumor Growth and Metastasis.
Nomura T, Hirata K, Shimaoka T, Yamakawa M, Koizumi N, Suzuki R, Maruyama K,Utoguchi N.
Biol Pharm Bull.
2017 Oct;40(10):1661-1668.
この度は、我々の研究成果に関して”Paper of the Month”として選定いただき、誠にありがとうございます。がん免疫療法は、宿主免疫機能を利用したがん治療法であり、がん組織特有の抗原をワクチンに用いることで、がん組織特異的な抗腫瘍免疫を誘導可能です。我々は、がん血管を構築するがん血管内皮細胞(TEC)を抗原として捉えた免疫療法の開発を行ってきました。本研究は、筆者と宇都口直樹教授(現 昭和薬科大学薬剤学研究室)が帝京大学薬学部在職中から、同学部薬物送達学研究室の丸山一雄先生のグループとの共同研究として進めてきたものであり、今回論文として公表しましたのでご紹介いたします。がんの増殖や転移に関与する血管を破綻することで、効果的にがん組織を退縮させることが可能です。我々はまず、がん組織から分画したTECをワクチン抗原として導入した樹状細胞を免疫したところ、効率よくがん増殖や転移を抑制できることを明らかにしました。また、その作用として、組織中の血管新生が抑制されがん血管の減少が確認されました。さらにがん血管は、宿主の血管内皮細胞由来の構造であるため、がん種に依らず共通のがん抗原が存在すると考えられます。その点我々は、異なるがん種で構築されたTECを抗原として免疫した場合にも、同様の抗腫瘍効果が発揮されることを証明しました。一方でがん血管を標的としたワクチンは、生理的な反応として誘導される創傷治癒時の血管形成を阻害しないことが明らかとなりました。以上のように我々は、TECを抗原として利用した免疫療法が、特定のがん種に依ることなく、がん血管を特異的に傷害することができるがん治療戦略になる可能性を示しました。現在は、本療法の詳細な免疫誘導メカニズムの解析を行っております。また当研究室では、免疫療法や抗体療法などのがん治療法の開発を推進しておりますので、ぜひ多くの先生方と共同研究を行いたいと考えております。
文責:野村 鉄也 昭和薬科大薬剤学研究室(nomuraATac.shoyaku.ac.jp)
丸山 一雄 薬物送達学研究室(maruyamaATpharm.teikyo-u.ac.jp)
2017. Oct-2
溝口病院 病理系グループ
「エタノールによる高速凍結法を用いた病理組織標本の評価」
Evaluation of pathological tissue specimens using the rapid freezing technique with ethanol.
Takahashi M, Aso T, Yuzawa K, Unno K, Yamamoto E, Yoshino M, Fukuda M, Yamada M, Takahashi K, Mizuguchi K, Kawamoto M.
Teikyo Medical Journal.
2017 Mar;40(2):77-88.
本研究のきっかけ:遠洋マグロを美味しく食べる技術の医療応用
ある日、黒岩義之先生(溝口病院神経内科客員教授、横浜市立大学医学部名誉教授)から、「今度、『高速凍結技術の医療応用への可能性の検討に関する調査開発委員会』というのを起ち上げるので、一緒にやりませんか」とのお誘い。お話を伺えば、現在の鮮魚の凍結技術では、解凍してお刺身にする時も、あの赤いつゆが滲みだしてくることがなく美味しく食べられるようになった(それだけ細胞、組織の凍結技術が向上している)とのことで、これを医療応用しようという産学官共同研究であるとのこと。病理では術中迅速診断を筆頭に凍結を日常的に使用していますが、標本の質は劣悪で迅速診断における正診率(95%, 何と20人に1人は誤診)が上がらない理由の一つなので、「はい、やります」の二つ返事。委員会は、一般財団機械システム振興協会のイノベーション戦略策定事業の一環として、食品の凍結器を提供している企業、凍結血漿でおなじみの日赤やバイオバンク部門、ブレインバンク、ホモグラフト、そして我々の病理診断部門などが、定期的に会議を開き、熱力学講義から凍結器械の原理、各部門の途中経過を報告しあいながら、成果や問題点を共有していきました。その委員会の中の我々の成果が本論文となっています。医療応用といってもコストパフォーマンスも追求しなければならず、2年間の研究では現行の凍結技術を凌駕するまでには至りませんでしたが、抗原性の保持が予想外に良かったことや、ネガティヴデータもしっかり掲載することで、将来の飛躍へのマイルストーンになったと思っています。最後に、黒岩委員長はじめ委員会のメンバーの皆様、そして何度も溝口病院を訪ねつつ大所帯の委員会マネージメントをして下さったNPO法人ECML21事務局の皆様にこの場を借りて深くお礼を申しあげます。
文責:川本雅司(溝口病院病理診断科、臨床病理部、電子顕微鏡室、フォトセンター)
2017. Oct-1
医学部 外科 呼吸器外科グループ
「肺癌の手術が癌細胞を循環血液中にばらまいているのでは?多施設共同前向き研究」
Does lung cancer surgery cause circulating tumor cells?-A multicenter, prospective study.
Matsutani N, Sawabata N, Yamaguchi M, Woo T, Kudo Y, Kawase A, Shiono S, Iinuma H, Morita S, Kawamura M.
J Thorac Dis.
2017 Aug;9(8):2419-2426.
呼吸器外科医のなかでは「下手が手術すると再発が多い!」と、都市伝説が伝わっていた。また、古い教科書では「還流血管である肺静脈遮断とリンパ節郭清をまず初めに行うこと」とも書かれている。これらは何の根拠もないが、術中に腫瘍をいじることで、癌細胞が血液中に散布されるのではないかという外科医のClinical Questionでもあり、そのため手術により癌細胞が散布されないように、初めに還流血管を切断することやリンパ節を郭清することが勧められていたのである。これまでの報告で、術者によって再発の頻度は変わらず、あくまでも「下手が手術すると再発が多い!」は都市伝説であることがわかっている。ただ、手術の操作により、血液中に癌細胞が散布されるかはわかっていない。この外科医のClinical Questionに対し、科学的な証明を試みたのが本論文である。
血液中の癌細胞を同定するのは、これまで紆余曲折があった。今回、我々が使用したScreenCell法はフィルターによって血液中の癌細胞を選別し、病理医と細胞診のscreenerが検証する方法で、ある一定の安定性と信頼性が得られている。本研究では、肺癌の手術の際に橈骨動脈から、手術直前と、肺を切除した際の2ポイントで採血を行いScreen Cell法で癌細胞の有無を調べた。29例に行い、手術開始時に癌細胞があったのは13例で、これは肺切除時にも癌細胞を全例認めた。手術開始時に癌細胞を認めなかったのは16例であり、このうち4例が肺切除時に癌細胞を認めた。この4例こそ、手術の操作により血液中に癌細胞が散布されたと考えられる。数は、少ないが外科医のClinical Questionに応えることができた。
今後は、血液中の癌細胞を認めたことが、どれだけ予後に関与するか検証を進めていく予定である。
2017. Sep-2
薬学部 生命薬学講座 基礎生物学研究室
「NEU1シアリダーゼは3T3-L1脂肪細胞のNF-κB経路を介したIL-6及びMCP-1の発現と分泌を制御する」
NEU1 sialidase controls gene expression and secretion of IL-6 and MCP-1 through NF-κBpathway in 3T3-L1 adipocytes.
Natori, Y., Nasui, M., Edo, K., Sato, S., Sakurai, T., Kizaki, T., Kihara-Negishi, F.
J Biochem.
2017 Aug 1;162(2):137-143.
シアリダーゼはシアル酸を加水分解する酵素であり、哺乳類の細胞ではNEU1-4が報告されています。このうち、NEU1はリソソーム酵素として異化分解に関与しその機能低下症が知られていました。近年ではさらにNEU1は細胞膜においてレセプター活性調節等を介してがんや糖尿病、免疫反応など幅広い機能が報告されています。
脂肪組織は内分泌器官としての機能を有し、様々なサイトカイン分泌を行っています。肥満による脂肪細胞由来のサイトカイン分泌異常や脂肪組織へのマクロファージの浸潤は脂肪組織の慢性的な炎症を引き起こし、その結果インスリン抵抗性や動脈硬化などを含めた生活習慣病を発症します。当研究室では3T3-L1前駆脂肪細胞の分化過程でNEU1の活性が上昇し、肥満モデルマウスの白色脂肪組織でもNEU1活性が上昇することを見出したことから、脂肪細胞機能に関するNEU1の役割を調べました。
分化誘導した3T3-L1脂肪細胞のNEU1をノックダウンしLPSで刺激した結果、炎症性サイトカインであるIL-6とマクロファージの浸潤を促進するMCP-1のmRNA発現や培養上清中濃度が減少することが分かりました。また、NEU1ノックダウンによりこれらのプロモーター活性や転写因子であるNF-kBの核移行も減少したことからNEU1は脂肪細胞のIL-6やMCP-1の転写を正に制御していることが示唆されました。LPSはTLR4のリガンドであることから、NEU1ノックダウンがTLR4のシアル酸量に与える影響を調べたところ、α2,3シアル酸が増加していることが示されました。これらのことから、NEU1はTLR4の脱シアリル化を介してLPS刺激誘導性のIL-6やMCP-1発現を促進していることが示唆されました。マクロファージのTLR4ではNEU1がその活性を制御することが報告されており、今回脂肪細胞でもNEU1がサイトカイン分泌に関与していることが明らかになりました。今後は、脂肪細胞とマクロファージの相互作用など生活習慣病に関するNEU1の機能をより詳細に調べたいと思います。
当研究室では、NEU1シアリダーゼが脂肪分解を制御することも見出し、Genes Cells. 2017 May;22(5):485-492に掲載されました。ご興味をお持ちの先生方にはご一読頂ければ幸いです。
文責:名取 雄人(y-natoriATpharm.teikyo-u.ac.jp)
医学部 内科 腎グループ
「インスリンはURAT1およびABCG2の機能を制御して尿酸の再吸収を促進する」
Insulin stimulates uric acid reabsorption via regulating urate transporter 1 and ATP-binding cassette subfamily G member 2.
Daigo Toyoki, Shigeru Shibata, Emiko Kuribayashi-Okuma, Ning Xu, Kenichi Ishizawa, Makoto Hosoyamada, Shunya Uchida.
Am J Physiol Renal Physiol 2017 Sep 1;313(3):F826-F834
帝京大学医学総合図書館の新規企画であります“Paper of The Month”の栄えある第一回目になりましたことを嬉しく思います。慢性腎臓病(CKD)は、心腎連関と言われるように心臓・血管・脳などの全身臓器に悪影響を及ぼすことが知られ注目を浴びています。当研究室では、尿酸代謝異常や高血圧といった生活習慣病の病態を腎臓病学の観点から解析しており、また臨床へのフィードバックを目指し、CKDの進展メカニズムとその解決策についても基礎研究・臨床研究を行っています。今回は、当研究室の大学院生が筆頭著者として発表したばかりの研究についてご紹介致します。
肥満や高血圧などのメタボリックシンドロームには高頻度で尿酸代謝異常が合併し、高インスリン血症と高尿酸血症との関連が報告されています。腎尿細管では尿酸再吸収を制御するURAT1、尿酸排泄に関与するABCG2といった輸送体があげられますが、本研究ではインスリンと尿酸輸送に着目しました。まず、1型糖尿病モデル (即ちインスリン欠乏状態)であるストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルでは尿中尿酸排泄が著明に増加しており、腎皮質においてはタンパク質レベルでURAT1の発現低下・ABCG2の発現増加が認められました。一方で、正常(非糖尿病)ラットに対して少量のインスリンを投与すると、逆に尿酸排泄が低下し、URAT1の発現上昇・ABCG2の発現低下が惹起されることがわかりました。さらに腎尿細管由来の細胞であるNRK-52Eにおいてインスリンは有意にURAT1の発現を増加させました。以上から、メタボリックシンドロームの基盤にあるインスリン抵抗性あるいは高インスリン血症は直接腎尿細管に作用して尿酸再吸収を亢進させ、血清尿酸上昇に寄与することが判明しました。今後はさらにその分子機序について解明したいと思います。当研究室では尿酸学についての研究を精力的に行っていますので興味ある先生がたの共同研究も推進できればと思っています。
文責:柴田 茂 (shigeru.shibataATmed.teikyo-u.ac.jp)